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ウッズ、飛距離よりパーオン率向上で完全復活

2019 4/16 07:00田村崇仁
ウッズ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

14年ぶりマスターズ制し、ニクラウスに次ぐメジャー15勝目

男子ゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズ(43)が膝や腰の度重なる手術、不倫スキャンダルなど私生活のトラブルを乗り越え、完全復活を果たした。

14日、米ジョージア州オーガスタで行われたマスターズ・トーナメントで通算13アンダーをマークして逆転優勝し、14年ぶり5度目の制覇。優勝賞金207万ドル(約2億3180万円)を獲得した。年に4度のメジャー大会では11年ぶりの勝利で、帝王ジャック・ニクラウス(米国)の18に次ぐメジャー優勝回数を15に伸ばした。

マスターズ成績,ⒸSPAIA

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ドライバーの飛距離は若手に置いていかれる場面も増えたが、大会を通じてパーオン率は全体1位の80・56%。世界を熱狂させる英雄が全盛期の勝負強さを取り戻せた鍵は、グリーンを狙うアイアンの切れ味と天性の感覚を持つショートゲームの復活にあった。

混戦からベテランの味

最終日に決まって着る勝負カラーの赤いウエアが輝いた。最終組の18番グリーン。短いボギーパットを沈めると、ウッズはひと呼吸置いて両手を突き上げ、雄たけびを上げた。大観衆の「タイガー・コール」が体を包み込む。「夢のようだ。数年前まで歩くことも横になることも苦痛で何もできなかった。ここに戻ってこられて最高の気分だね」。1997年の初優勝を見届けてくれた父アールさんはもうこの世にいない。歓喜の渦の中、応援に駆け付けた愛する家族の母クチルダさん、長女サムさん、長男チャーリー君と抱き合い、勝者の証であるグリーンジャケットを羽織った。

2打差の2位で出たウッズが圧巻の勝負強さを見せたのはサンデーバックナイン。最終組をともに回ったフランチェスコ・モリナリ(イタリア)がアーメンコーナーの12番(パー3)で第1打をクリークへと落としてダブルボギーをたたき、通算11アンダーで並んだ。そこにメジャー3勝の飛ばし屋、ブルックス・ケプカ(米国)も15番(パー5)のイーグルで優勝争いに加わり混戦に。公式サイトによるとウッズは「誰が勝っても不思議でなかった」と振り返るが、コースを知り尽くした経験豊富なベテランの味を発揮した。

13番(パー5)を2オン2パットでバーディーを奪い、定石通りにアーメンコーナーを切り抜けると、15番でも計算されたショットと好調なパッティングでバーディーを奪取。今大会初めて単独トップに躍り出た。続く16番(パー3)では第1打をグリーン右からの傾斜で転がしてピンそば1メートルに寄せるスーパーショット。6つ目のバーディーで勝負の流れを決定づけた。

歴代最多勝利へあと1

これまでのメジャー14勝はすべて最終日を首位からスタート。逆転でのメジャー制覇は自身初というのも新生・ウッズの復活を物語る。43歳3カ月でのマスターズ制覇は、1986年に46歳2カ月で大会6勝目を挙げたニクラウスに次ぐ年長優勝。円熟味を加えた忘れられない1勝は米ツアー通算81勝目で、歴代最多となるサム・スニード(米国)の82勝にあと1と迫った。

PGA勝利数表,ⒸSPAIA

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データでも復活証明

大会を通して安定したショットでピンを攻め、データの上でも復活を証明した。ドライバーショットはやや不安定で4日間のフェアウエーキープ率が47位(62.50%)にとどまったが、最終日は71.43%に上昇。そのホールの基準打数から2を引いた打数でグリーンに乗せるパーオンは72ホール中58ホールで成功。パーオン率80.56%は全選手でトップの数字だった。3日目は驚異的な88.89%、最終日は83.33%をマーク。バーディー数は4日間で計22個を奪い、1位のザンダー・シャウフェレ(米国)の25個に次いで2位となった。

ウッズデータ表,ⒸSPAIA

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敵なしだった黄金時代のウッズもティーショットの正確性は決して高くなく、グリーンを狙うショット、アプローチ、パットの精度が抜群だった。

今大会のドライバーショットの平均飛距離294.0ヤードは全体で44位。トンガ・サモア系米国人のトニー・フィナウが315.75ヤードで1位で、303.1ヤードで16位の松山にも10ヤード近く及ばない。ツアー屈指の飛ばし屋だった全盛期から円熟味を増したスタイルで、復活のメジャー制覇を遂げた。

逮捕やイップス…世界ランク1199位まで転落

ウッズは1997年にマスターズを21歳で制して世界的な人気と注目を集め、2000年に史上5人目の四大大会全制覇を達成。08年にメジャー14勝目を挙げたが、その後は泥沼の時代に入った。世界ランクは1199位まで転落。自宅のあるフロリダ州の路上で飲酒か薬物の影響下で車を運転した容疑で逮捕され、アプローチイップスに見舞われた時期もある。周囲に「タイガーの時代は終わった」と言われたが、それでも表舞台に帰ってきた。

再びカムバックした18年は夏場にかけて調子を上げ、全英オープン、全米プロで優勝を争い、9月のツアー選手権で5年ぶりに米ツアーを制覇。「まだ勝てる。戦えることを証明した」と自信を取り戻し、満を持してオーガスタに帰ってきた。

「常に戦うことだ。あきらめたら、道は切り開けない。戦い続ければ乗り越えられる」。22年前、父に贈った初優勝の喜びを、今度は最愛の子どもたちに父からプレゼント。家族と全世界のファンにそんなメッセージを届ける劇的な復活優勝だった。

タイガー・ウッズ(米国) アマチュア時代に全米アマ3連覇と活躍し、96年プロ転向。97年にマスターズを史上最年少の21歳で初制覇。00年に史上5人目の四大大会全制覇を達成。08年の全米オープン選手権を最後にメジャー制覇から遠ざかり、ここ数年は腰痛の手術や私生活のトラブルが影響して低迷。18年9月のツアー選手権で5季ぶりに優勝。米ツアー歴代2位の通算81勝で賞金王10度。メジャー通算15勝も歴代2位。カリフォルニア州出身。185センチ、84キロ。43歳。

男子ゴルフのメジャー マスターズ・トーナメント、全米プロ選手権、全米オープン選手権、全英オープン選手権の4大会。今季から全米プロ選手権が5月に移り、4~7月まで毎月、行われる。いずれも歴史や権威があり米、欧州の両ツアーに組み込まれ強豪が集う。全てを制する「生涯グランドスラム」の達成者はジャック・ニクラウス、ベン・ホーガン、タイガー・ウッズ(いずれも米国)ら5人。日本勢は青木功、松山英樹の2位が最高。