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フェラーリに悪夢再び それでも敗戦から見えたルクレールのすごさとは? 

2019 4/3 15:00河村大志
シャルル・ルクレール,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

まさかの結末!第2戦バーレーンGPをプレビュー

波乱の開幕戦が終わり、F1サーカスは第2戦の舞台バーレーンへ。開幕戦で本来の実力が全く出せず、表彰台にも上れなかったフェラーリ勢が本来の速さを見せつけるレースとなった。

予選ではフェラーリ勢がメルセデスを寄せつけずフロントローを独占。ポールポジションを獲得したのは、今シーズンからフェラーリに移籍したシャルル・ルクレール(Ferrari)だった。2番手にセバスチャン・ベッテル(Ferrari)、3位にルイス・ハミルトン(Mersedes)、4位に開幕戦ウィナーのバルテリ・ボッタス(Mersedes)が入った。

決勝ではポールのルクレールがスタートミスし、ベッテルに先行を許す。スタートでチームメイトに先を越されたルクレールは6周目にベッテルをパスしトップに浮上。

一方、ペースの上がらないベッテルはハミルトンにアンダーカットを決められ3位に後退。しかしタイヤのセット数に余裕がなく、ソフトタイヤでペースが上がらないハミルトンをベッテルが23周目にオーバーテイクした。

35周目に2回目のピットストップを行ったハミルトンは、新品のミディアムタイヤを履きペースが回復。38周目のターン4でハミルトンがベッテルに仕掛けて2位に浮上。その時ベッテルがコーナーの立ち上がりでまさかのスピン。さらにフロントウィングにダメージを負いピットインを余儀なくされ、9位に後退してしまった。

そんなチームメイトとは対照的にトップのルクレールは盤石の体制でトップを走っていた。しかし残り11周で急にルクレールのペースが落ちる。シリンダーの誤燃焼が原因で、推定40馬力も失ってしまったルクレールにハミルトンが迫り、48周目にトップに浮上。さらに残り4周でボッタスにもパスされ、4位のマックス・フェルスタッペン(Red Bull)もルクレールに迫ってきた。

フェルスタッペンがいよいよルクレールに迫ってきた残り3周という場面でルノーの2台が立て続けに1コーナーでストップ。ルノーのマシンを撤去するためにセーフティーカーが入ることになった。

セーフティーカー先導のままレースは終了し、ハミルトンが波乱のレースを制した。2位にはボッタスが入りメルセデスが開幕戦に続き1-2フィニッシュを達成。ルクレールはセーフティーカーに助けられる格好で何とか3位表彰台を獲得することになった。

4位には表彰台まであと一歩に迫ったフェルスタッペン、痛いスピンを喫したベッテルは5位でレースを終えた。

ポテンシャルを見せつけたルクレールのすごさとは?

1つのシリンダーで誤燃焼が起きたことにより、残り10周あまりで優勝を逃してしまったルクレール。しかし今回のバーレーンGPでルクレールのすごさを改めて思い知らされた。その才能はF1デビュー前から発揮されていた。

GP3(現F3)では抜群の安定感を見せ、ルクレールよりも勝利数が多かったチームメイト、アレクサンダー・アルボンを上回り参戦初年度でいきなりチャンピオンに輝いた。

翌年F2にステップアップし、そこでは圧倒的な速さを見せつけた。ポールポジション8回、優勝7回を記録し、ランキング2位以下に大差をつけてチャンピオンを獲得する。F2ではポールポジションからの独走だけではなく、後方からの追い上げもみせており、勝負強さも兼ね備えていることを証明した。

F1デビューは戦闘力のないザウバー(現アルファロメオ)からの参戦だったが、マシンのポテンシャル以上のパフォーマンスを発揮。その後チームの体制もよくなり、ルクレールはランキング13位でF1初年度を終えた。

今年から名門フェラーリに移籍したわけだが、シーズン前のテストからルクレールはチームに溶け込んでいる印象を受けた。名門フェラーリ、さらにチームメイトに4度世界王者に輝いたベッテルと、2年目のドライバーにとってフェラーリドライバーは非常にプレッシャーのかかるポジションである。しかしテストからいきなりトップタイムを出すなど高い適応能力を発揮し、チームスタッフとのコミュニケーションを積極的に取り、いきなり「自分のチーム」にしていったのだ。

これができるのは卓越したドライビングテクニックだけではできない芸当だ。今回初めてポールポジションを獲得した時も「セバスチャン(ベッテル)から学んでいく」と発言。決勝レースではトラブルで優勝を逃すも、「速いマシンを用意してくれたチームに感謝したい」と決してネガティブな言葉は発しなかった。これまで数々のF1ドライバーを見てきたが、弱冠21歳でこの発言ができるドライバーを見たことがない。

ルクレールの決勝直後のインタビューが終わると、フェラーリのスタッフから大きな拍手が起こったように、彼の人間性は人々を味方につける魅力となり、さらに強いチーム、マシンを生み出し、運さえも味方につけるだろう。ルクレールに真っ先に駆け寄り労いの言葉をかけたハミルトンの素晴らしい行動も賞賛に値する。

近年ハミルトンの態度、発言、心配りがこれまで以上に良くなり、圧倒的なドライビングテクニックに加え、関わるもの全てを味方につけ頂点に君臨している。しかし、彼がここまでなるのにF1デビューから8年はかかっている。この全てを味方につける魅力をルクレールはすでに持っているのだ。

レーシングドライバーはエゴの塊で自分が一番だという人間ばかりである。ましてやチャンピオンになるにはそうでなければいけない。しかしこの厳しい世界で「徳」を持ち合わせながらも強く、速いドライバーが絶対的な存在になると私は思う。レーシングドライバーに「徳」なんてありえないと思われるが、ありえないからこそ「徳」を持っているドライバーがすごいのだ。

ハミルトンがそれに気づくまでに少なからず時間がかかったが、ルクレールはそのことにすでに気づいている、いや、それが自然にできるのかもしれない。まだ21歳、彼のこれからの活躍は私たちの想像を超えてくれるかもしれない。

中国GPの優勝者は?

やはり開幕戦の順位どおりにシーズンは進みそうにない。第2戦のバーレーンで今年の勢力図が少し見えてきたわけだが、今年もフェラーリVSメルセデスのチャンピオン争いになりそうだ。

次戦は中国の上海インターナショナルサーキットが戦いの舞台となる。第3戦の中国でF1は記念すべき1000回目の開催となり、記念行事が行われることが予想される。コースの特徴はセクター1の低速コーナーの連続区間、セクター2の高速コーナー区間、セクター3のロングストレートと、非常にバランスの良いコースレイアウトといえる。

バックストレート手前で大きく回り込む右コーナーやストレートエンドのブレーキングはタイヤに負荷がかかるポイントである。オーバーテイクポイントが多く、走りやすいサーキットなだけに、いかにタイヤマネジメントができるかが勝負の分かれ目となる。

ハミルトンはこの中国で過去5勝を挙げており、現役ドライバーの中で圧倒的な勝率を誇っている。

しかし今回、私は中国GPの勝者をルクレールと予想したい。今回トラブルに泣いたルクレールはマシンやタイヤに対してしっかりマネジメントできるドライバーで、それはF2、GP3でも実証済みだ。速さだけではなくマシンやタイヤの管理をこなせるルクレールは1000回目のF1で初優勝を成し遂げる可能性は十分にある。タイヤマネジメントが鍵になるサーキットだからこそ、ルクレールの強みが生きるのではないだろうか。