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【Bリーグ】最優秀審判・加藤誉樹 「正しい笛を吹く以前に、正しいポジションに入ること」

Bリーグアワード賞にて最優秀審判と表彰された加藤誉樹Ⓒマンティー・チダ
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Ⓒマンティー・チダ

加藤誉樹が3季連続「最優秀審判」

Bリーグで表彰を受けるのは、選手やHCだけではない。試合をコントロールするレフェリーも表彰の対象になる。試合においては選手やヘッドコーチが全力を尽くして戦うわけだが、レフェリーがコートに立って初めて試合は成立するのだ。

表彰はBリーグファーストシーズンから実施されており、3季連続で「最優秀審判」を受賞した加藤誉樹。彼は今や日本を代表するレフェリーとなった。今季もBリーグファイナルや天皇杯決勝など、男子日本バスケ界の重要な一戦で加藤は必ずレフェリークルーに名を連ねる。

今季BリーグMVPを受賞した富樫勇樹(千葉)は、受賞スピーチで表彰式に参加していた加藤に感謝の言葉を発している。

「あまり普段は言葉にしませんが、今日は加藤(誉樹)さんがレフェリーとしていらっしゃっています。レフェリーの方なしには試合は成立しないので、いつも文句ばかり言って本当に申し訳ないんですが……、加藤さんを含め、レフェリーの方もいつもありがとうございます」

Bリーグでコート上に入れるレフェリーは3人。3人のレフェリーは、それぞれ同じ権限を持つことになる。レフェリーは、試合においてジャッジの正確さが求められ、シチュエーションごとに、それぞれ対応していく。

テーブルオフィシャルズにも気配りを忘れない

加藤は、3度目の最優秀審判を受賞し、昨季同様、テーブルオフィシャルズに感謝の言葉を壇上でスピーチで述べた。

「バスケットボールの審判は一人では務まりません。私が今こうしてここに立たせていただけるのは、長いシーズンをともに走り抜けてきた皆さんの力添えがあってのことだと思っております。また今シーズンも全国各地のテーブルオフィシャルズの皆さんには、オフィシャルクルーの一員として多大なご協力をいただきました。いつも本当にありがとうございます」

加藤がスピーチ上で感謝の意を表した「テーブルオフィシャルズ」は、T.O(ティー・オー)と呼ばれることが多い。(以下T.O)

主な仕事として“コート上でプレーする選手、レフェリーの判定を見ながら、タイマーを使用して試合時間を管理すること、得点やファウルの記録”などゲームの進行をサポートする役目だ。試合中は“ゲームの流れをT.Oが作らない”様に細心の注意を払っている。

例えば、ファウルで試合を止めた時、タイマーを止め忘れてしまうこともある。手を挙げるなどで、コート上のレフェリーと意思疎通を行ったり、スムーズな進行をしていくために、T.Oとの呼吸を合わせることはレフェリーにとって大事な要素となる。

加藤と一緒にT.Oのメンバーとして参加した人に、加藤の印象を聞くと、このように話をしてくれた。

「ゲーム前のミーティングで、他のゲームで起こった現象をビデオで説明するなど、レフェリーとT.Oが一緒にクルーとしてゲームに臨めるよう声掛けをされている。決して厳しくなく、わからないところはきちんと説明してくれて、忙しい中でも丁寧な心配りが嬉しい」

試合を運営する上で、レフェリーとT.Oがそれぞれの役割を全うしないと、試合そのものが壊れる恐れもあるので、このように意思疎通を図ることは大事だ。

「名前を覚えることがコミュニケーションをとる一番の方法」

加藤からこのように言われており、T.Oメンバーの名前を覚えているので、各個人の仕事ぶりもしっかり観察している。

「ゲーム中も、常にコンタクトをとりやすく、OKサインなど心強い。褒めてもらえることもあるので嬉しい。試合中のトラブルや疑問点についても、試合後に丁寧に教えてもらえる」

加藤は、試合をコントロールする立場でありながら、裏ではしっかりクルーにフォローすることを忘れていなかったのだ。

正しい笛を吹く以前に、正しいポジションに入ること

「選手の時に怪我をして運営側に回っていた時に、人が足りないからと、レフェリーを頼まれた」

これがレフェリーを始めたきっかけだという。怪我が無ければ、レフェリーはしていなかったそうだ。

加藤はレフェリーにとって重要な事として“正しい笛を吹く以前に、正しいポジションに入ること”とする。

「ルールは文字で記されている。でも笛を吹くときは、マニュアル通りに吹けるとも限らないし、見えていないと吹けない。正しいポジションにつくことができるかが意外と重要で、ある意味『心・技・体』が求められる」

試合を進める上で、ファウルやバイオレーションは、レフェリーが笛で合図をする。ただ、その笛を吹くまでには、笛を吹けるポジションに入ることが大事であり、レフェリーの目線は、常に変化することも付け加えた。

「3人で協力して見るので、今はこのマッチアップと、そのマッチアップが近くて、なおかつ前にこういうプレーがあったので、目の前でマッチアップする選手は、フラストレーションを貯めているかもしれないから目を離せない」

このように、見方の一例を示す。さらには状況に応じて目線を使い分けているという。

「いつも俯瞰しているもの、安定しているものばかりを見ているわけではない。何かにフォーカスすることもあれば、一歩引いた見方をすることもある」

コート上では、両チーム合わせて10人の選手がプレーしている。ボールを持つ選手、それに対してマッチアップする選手以外に、ボールを持っていない残りの8人についても、レフェリー3人において、約束事を決めた上でチェックする。レフェリーはコート上にある、あらゆる情報をこぼさない様に、それを材料にしながら、目の前に起こったことに対して、笛を吹いたり吹かなかったりしているのだ。

また、選手の振る舞いや目にも気を配っている。色んな約束事の中、自分が見るべきマッチアップ、時計、テーブル、コーチの振る舞い。約束事で決まっていることをカバーしながら、常に状況判断をする。

「選手の目が教えてくれるものもたくさんある。選手の表情を見ながら、フラストレーションを貯めているなと感じることもある。チームがタイムアウトをコールしている間、レフェリー3人で、次に何が起こりそうだとか、起こりそうなことが実際に起こった時に誰がどう対応すればよいか、自分の目の前でこういうことがあって、この後こういうことが起こるかもしれないなど、様々な予知を3人で想定する。そして、自分の目の前でこういうファウルをコールしたので、他の2人の前で起こった場合はコールできるようにするなど、3人ですり合わせをしている」

このように3人で如何に意思疎通を図るかが大事になるのだ。

アリーナによってはショットクロックがどこにあるのか、ショットクロックやゲームクロックの音なども試合開始70分前に確認している。ショットクロックとゲームクロックが重なるとどう聞こえるのかも、その時にチェックしている。

今季からビデオ判定が導入され、ファウルなどで使用されている。正確な判定ができるようになってきたようだが、一方でその間は試合が止まっている。「なるべく短い時間になるようにというのは大事」と加藤は語る。

試合を観戦する立場からすると、なかなか注目しない所でも、レフェリーは事前チェックをしている。正しい判定をするために、彼らは常日頃から努力をしていることを知ってほしいし、試合においてもそういう見方があっても良いだろう。