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カープを引っ張てきた新井の引退と菊池へのリーダーシップ継承

2018 11/7 17:04藤本倫史
ⒸShutterstock.com
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リーダーが見当たらなかった日本シリーズ

日本シリーズが終わった。カープファンであり、カープを研究しているものとして、とても残念な結果に終わった。私は幸運なことに、今回、クライマックスシリーズファイナルステージ、日本シリーズともに第2戦を現地で観戦することができた。その試合観戦などをもとに、今回は新井貴浩と菊池涼介の二人について、独自の視点で述べていきたい。

私が注目したのは「リーダーシップ」である。2016年の日本シリーズでは、黒田と新井がチームを引っ張っていたが、今回のカープのリーダーは誰だったのだろうか。シーズンMVP候補の丸、急成長した鈴木誠也、リードオフマンの田中、それとも引退する新井なのか。

ホークスでは内川がチームをまとめるだけでなく、自身8年ぶりとなる犠打を2本も決めるなど、献身的な活躍を見せていた。一方、カープに関しては誰がチームを引っ張っていたのか私には見えにくかった。

個人的には、菊池がリーダーシップをとるべきではなかったかと考えている。クライマックスシリーズまでは、間違いなく菊池は先頭に立って、チームを引っ張っていた。

シーズン中、丸や鈴木は怪我で離脱し、菊池自身も膝の故障で打撃の調子が中々上がらなかった。しかし、菊池は1年間ベンチに居続け、圧倒的な守備力でチームを支えた。実際に失策数は3と過去最少で、守備率も.996という高い数字を残し、アクロバティックな守備に加えて、安定感も出てきた。

新井の意志を受け継ぐ菊池

菊池もこの1年はつらかったのではないか。7月26日にスタメンから外され、その後も定位置だった2番を外れることもあった。本人としてはとても悔しいシーズンだったと思う。

ただ、ここで腐っていてもしょうがない。菊池はベンチで声を出し続け、チームを鼓舞した。一見、明るいキャラクターでリーダーに見えないかもしれないが、本当にチームのことを考えている。

カープ3連覇の初年度である2016年の前年、私はある取材で菊池にロングインタビューをしたことがあった。彼は優勝できないチームに対して、「年上の人たちが率先して声を出さないといけない。そうしないとチームがやろうと一致団結しない。それは僕とかが率先しないとダメだ」と言っていたのを思い出す。

私は、この菊池の言動の背景に新井の姿があるのではないかと感じていた。菊池は彼をお兄ちゃんと慕い、その関係性は全国的にもほのぼのとした様子で伝えられていた。だが、それはただ仲が良いだけではなく、リーダーとしての姿勢も教わる素晴らしい関係性だったのではないか。

新井にとっても今シーズンは苦しいシーズンとなった。今まで以上に代打として準備をする日々を送り、葛藤があったのではないだろうか。それでも、チームを盛り上げ、リーグ優勝へと導いた。

新井が最後に見せたリーダーとしての勇姿

その菊池と新井の苦労が実を結んだのが、クライマックスシリーズ第2戦。1点リードされて迎えた8回裏、ここぞという場面で新井の同点タイムリーと、菊池の逆転ホームランが飛び出した。菊池はこの一打だけでなく、シリーズを通して守備でも一流の働きを見せ、打率.200ながらシリーズMVPに輝いた。

では、日本シリーズの菊池はどうだったか。第1戦はいきなり初回にホームランを放ち、チームを勢いづけた。だが、優勝のプレッシャーや本人の体調の問題もあったのか、第4戦では途中交代。後がない状況で迎えた第6戦でも、初回にシーズン中は失敗したことがなかった送りバントを失敗してしまう。結局、菊池はクライマックスシリーズより打率の高い.217で日本シリーズを終えたが、チームを牽引するような活躍とはいかなかった。

カープにとっては非常に厳しい結果となったが、菊池には、新井の姿勢から何かを感じとっていてほしいと願う。新井は日本シリーズ第6戦の最終回、ベンチでバッティンググローブをつけ、バットをずっと握ったまま、打順が回るのを落ち着いた顔で待っていた。他の選手の顔はどこか余裕がなかったように見えた一方で、新井の佇まいからは「回してくれたら絶対に打つ」という強い気概が感じられた。

この回の、先頭打者は菊池だった。何とか逆転の突破口を開きたいところだったが、あえなくサードゴロに倒れた。結局、後続も倒れ、今季限りで引退する新井まで回すことができなかった。

この悔しさを来シーズンにつなげ、真のリーダーとして、カープを引っ張ってほしいと新井とファンは願っているのではないだろうか。