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阪神・糸井嘉男は金本以来の強打者か 今季OPSは過去10年で球団内日本人トップ

2018 11/10 07:00青木スラッガー
バッター,ⒸShutterstock.com
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阪神2年目のFA戦士・糸井嘉男が今年も打線をけん引

阪神2年目のFA戦士・糸井は今年も頼りになる男だった。

今シーズンは3番打者として開幕を迎え、中盤頃から福留孝介の後ろを打つ4番に定着。打率.308・16本塁打・68打点の好成績を残し、ベテラン2人で阪神打線をけん引した。若い頃から「トリプルスリー候補」と呼ばれ続けてきた超人も、とうとう37歳になったが、今シーズンは盗塁成功率88%で22盗塁を記録。まだまだスピードも衰えていない。

ただ、少しもどかしさを感じてしまうのは、阪神加入後、2年続けてフルシーズンを戦えていないことだ。けがでチームを離れる期間があり、昨シーズンは114試合、今シーズンは119試合の出場となった。

特に今シーズンは7月に右腓骨骨折で離脱するまでは絶好調で、キャリアハイの成績を狙えただけに、非常にもったいなかった印象がある。序盤の好調ぶりからすると、16本塁打・68打点は他球団の主軸打者と比べるとやや物足りないかもしれない。

しかし、フル出場とはならなかったものの、「出塁率」と、そこに長打率をプラスした「OPS」に注目すると評価は変わってくる。今シーズンは出塁率.420、OPS.900を記録したのだ。

阪神の過去10年で出塁率・OPS日本人打者トップ 金本以来の強打者か

今シーズンのセ・リーグでは糸井以上のOPSを記録する打者が9名。パ・リーグには5名いた。しかし、ここ10年間の阪神では、2010年に47本塁打を放ったブラゼル(.902)のみだった。阪神で、OPS.900以上の日本人打者は、2008年の金本(.919)が最後となる。

規定打席以上のOPS

ⒸSPAIA

出塁率についても金本以来の記録となった。これに関しては、2008年よりさらに前のシーズンまでさかのぼる。規定打席に立って、出塁率.420以上を残した阪神の打者は、2005年の金本(.429)が最後。打率.327・40本塁打・125打点といういずれもキャリアハイの成績を残し、リーグMVPに輝いた。

規定打席以上の出塁率

ⒸSPAIA

OPSについて簡単におさらいする。なぜ出塁率と長打率を合計するのかというと、打率や出塁率、長打率単体よりも、得点への相関が高い指標になるからだ。出塁率単体に関しても、打率単体よりは得点への相関が高い。セイバーメトリクスの観点でいうと、糸井は阪神の過去10年で最も優れた日本人打者ということになる。

ただし、糸井が「金本2世」かというと、その表現には少し違和感がある。OPSはわかりやすく強打者を評価できる指標として優秀だが、より詳細に打者の特徴を知るためには、出塁率と長打率を個別に見なければならない。

適性打順は「クリーンナップ」か、「トップバッター」か

2005年の金本は出塁率・長打率ともに最強クラスで、シーズン成績で歴代上位に入るような打者だ。これは別として以下3人を比べる。2008年の金本は出塁率・長打率の両方がバランス良く優秀。ブラゼルは長打率が抜けている。対して糸井は、抜群の出塁率によりOPSを.900に届かせた。3人それぞれタイプが違った打者といえるだろう。

OPS.900以上

ⒸSPAIA

この阪神のOPS.900以上3人の比較から考えたいのは、糸井の適性打順だ。阪神加入の2シーズン、3番・4番打者での出場が多かった糸井だが、トップバッターとしての適性も非常に高いといえるだろう。

今シーズンのセ・リーグに糸井以上の長打力を備えた打者は12名いたが、出塁率で糸井以上は4名しかいない。そのうえで、糸井は過去最高シーズン53盗塁を成功させた足も備えている。4割以上の出塁率と盗塁できる足を備えた打者の希少性は高く、この能力はトップバッターで最も活かされる。

出塁率は打順や他の打者との関係性によっても変わってくるが、糸井の場合は昨シーズンまでに4割以上、3割8分以上がそれぞれ4回ずつと、毎年高い水準で安定している。また、出塁率から打率を引いて、選球眼の目安として四死球のみの出塁率を表す「Isod」という指標においても、ほとんどのシーズンで.090~.100と高い数字を残している。打順の変更により、極端に出塁率が下がることは考えにくい。

今シーズンは糸井をクリーンナップから外せない状況だったが、大山悠輔や中谷将大、原口文仁、陽川尚将、北條史也といった、現在頭角を現している打者たちが更なる躍進を果たせば、自然と糸井はトップバッターに移す流れになるのではないだろうか。そうなれば、阪神は打線全体が何段階も進化を遂げている状況になる。クリーンナップの糸井が頼りになることは間違いないが、「1番・糸井」も一度シーズンを通して見てみたいところだ。