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ヤクルトが終盤戦に見せた「勝利」と「育成」

2018 11/1 07:00勝田聡
バッター,ⒸShutterstock.com
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ベテランに頼ることが多かった今季

2015年のリーグ優勝から、5位、6位とわずか2年で最下位に転落したヤクルト。今シーズンも決して前評判は高くなかった。しかし、終わってみれば貯金を「9」作り、2位でフィニッシュ。特に12勝9敗1分した9月と、6勝1敗した10月のラストスパートは印象的だった。

クライマックスシリーズこそ巨人の前に敗れたが、大躍進と言っていい。その立役者は山田哲人、青木宣親、石山泰稚、近藤一樹……名前を挙げればキリがないほど沢山いる。

その一方で、チーム全体の高齢化も進んでいる。レギュラー野手は26歳の山田哲が最年少となっており、外野はウラディミール・バレンティン、雄平、青木と軒並み30代半ばで、一塁を兼任している坂口智隆も同様だ。

規定打席到達打者及び新人の成績

ⒸSPAIA

先発投手陣を見ても、若手と呼べるのは大卒3年目だった原樹理ただひとり。期待されていた星知弥は故障もあり、先発は3試合(中継ぎ含め18試合)に終わっている。日本人投手でもっとも先発登板が多かったのは、なんと最年長の石川雅規(38歳/22試合)だった。

石川はベテランらしい投球で7勝6敗と貯金をつくっており、チームに貢献していることは間違いない。中継ぎ陣でチーム最多登板したのも、35歳の近藤一樹(74試合)とベテラン域の選手だった。このことからも、もう少し若手の台頭が欲しかったというのが本音だ。

主な投手の成績

ⒸSPAIA

終盤に経験積んだ村上、宮本、塩見

「育成」と「勝利」の両立─プロ野球の世界では長年の課題でもあり、どの球団も苦労する部分だ。育成するために若手を起用すれば、勝利からは遠のいていく可能性が高い。一方で勝利を求めるあまりベテランを重用すれば、若手の成長機会が失われる。

そのようなジレンマの中、今シーズンのヤクルトは(優勝という大目標は達成できなかったものの)終盤戦で比較的「勝利」と「育成」を並行することができたのではないだろうか。

野手ではルーキーの宮本丈を26試合、塩見を16試合に出場させ経験を積ませた。もちろん両選手ともに課題も多く、レギュラーとしてはまだまだ物足りない。だが、一軍の試合に出場したことが大きな財産となったことは間違いない。来シーズンはまず、一軍定着を目指したいところだ。

また、ドラフト1位のスラッガー候補・村上宗隆も一軍デビューを果たしている。最初の守備機会で失点へ繋がる失策を喫したデビュー戦だったが、その後の初打席で右翼スタンドへ豪快な1発。並の選手なら失策で落ち込んでしまうものだが、最高の結果で取り返して見せた。それ以降のシーズンで安打が出せなかったことは残念だ。しかし、フェニックスリーグで本塁打を量産し、高卒2年目となる来シーズンはレギュラー争いにも加わりそうな勢いだ。

高橋奎二のK%はチームNo.1

投手陣では先発、中継ぎともに楽しみな素材が実力の片鱗を見せた。高橋奎二と梅野雄吾だ。高卒3年目の高橋は勝負所の9月に入り一軍デビュー。初勝利を挙げた3試合目は、勝てば2位が決まる大一番でもあった。その試合で見事初勝利をマークし、今シーズンは1勝1敗、防御率3.00という結果に。

15回で20三振を奪う奪三振能力が高橋の魅力だ。K%(対戦打席に対する奪三振を表す指標)はなんと29%。投球回数が少ないとは言え、ヤクルト投手陣のなかでもトップの数値を示している。

一方の梅野はセットアッパーとして主に7回を任され、29試合に登板。小川淳司監督からも「キーマン」として期待され、それに応えた。来シーズンの起用法は明らかになっていないが、どの役割でもパワフルな投球を見せてくれるはず。

もちろん、高橋、梅野ともに課題はある。とくにHR/9(1試合で本塁打をどれだけ打たれるかを表す指標)は高橋が2.40、梅野が1.69と褒められた数字ではない。狭い神宮球場が本拠地とはいえ、被本塁打率を減らすことで成績を向上させたい。

そのHR/9を良化させた先輩は身近にいる。今シーズン、HR/9を1.30から0.24と大幅に良化させ、成績を向上させた原だ。コーチの指導、本人の努力と複数の要素はあるだろうが、両投手とも原に続きたいところ。

このように今シーズンのヤクルトはCSへ向け、順位争いが激しかった終盤戦で若手選手達を次々に起用し、白星を積み重ねながら成長を促してきた。単純な「お試し起用」ではなく、「戦力」としてプレッシャーがかかる試合に出場したことは若手選手たちにとっても大きな財産になったはず。

その財産をそのまま眠らせておくのではなく、生かすことで来シーズン以降、欠かせない存在となることに期待したい。

※数字は2018年シーズン終了時点