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阪神矢野新監督の方針も「育成」 金本チルドレンは一本立ちなるか

2018 10/28 11:00青木スラッガー
野球ボール
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矢野新監督は「若手を中心に」

阪神の新監督人事は大方の予想通りの結果となった。金本知憲前監督就任と同時にコーチとして入閣し、今シーズンは二軍監督を務めた矢野燿大氏だ。強かった時代のブレーンであり、指導者としても3年間みっちり現場で経験を積んだ男が虎の指揮を執る。

今シーズンは17年ぶりの最下位に沈んだ阪神。その結果が続投濃厚と思われていた金本前監督の辞任を引き起こし、就任1年目からのテーマであった若手育成は道半ばに終わった。「勝利」と「育成」の両立。ファンにとっても、この難しさを痛感させられた3年間だったのではないだろうか。

矢野新監督は10月18日に記者会見を行い、来シーズンへの抱負を語った。そこで印象的だったのは、「金本路線」継承ともいえる、育成を中心とするチーム再建方針だ。補強に関しては「いる選手をどうするかが大きな仕事」「現状、大きな要望という感じではない」と、あまり積極的な姿勢をみせなかった。

一方でユニフォームを脱ぐ金本前監督は、冗談まじりではあるが「だいぶ育成も終わった。そろそろ補強で勝たれた方がよろしいと思います」という言葉を残している。

確実にチームが若返った3年間だが……

確かにこの3年間、阪神のチームカラーは確実に若返った。

投手陣では岩貞祐太と秋山拓巳がローテーション投手に育ち、岩崎優や石崎剛、望月惇志もリリーフとして活躍。今シーズンは高卒2年目、才木浩人の躍進もあった。また年齢は30歳オーバーだが、オリックスから移籍してきた桑原謙太朗も「現役時代打者として対戦して嫌だった」と金本前監督が才能を見出した投手のひとりだ。

野手陣は金本前監督就任の2016年途中に育成契約から支配下昇格した原口文仁をはじめ、中谷将大、北條史也、陽川尚将、梅野隆太郎、植田海と数多くの若手が芽を出し、大山悠輔や糸原健斗といった就任後に入団してきた選手も1~2年で戦力となった。今シーズン終盤に昇格してきた俊足ルーキーの島田海吏も中堅手レギュラー候補として楽しみな存在だ。

2003・2005年のリーグ優勝後の阪神で、ここまで有望な若手が横並びで立て続けに登場してきた期間はなかっただろう。しかし、課題はこの中にまだ2年、3年と続けて結果を残した若手選手がほとんどいないことだ。

岩貞は2016年10勝、秋山は2017年12勝をマークし、エース候補として期待されたが、それぞれ2桁勝利はこの1年のみ。2016年11本塁打の原口、2017年20本塁打の中谷も2桁本塁打はこの1年だけ。遊撃手の北條も2016年にレギュラーを掴みかけたが、3年間で鳥谷敬の後継者としてのポジションを確立はできなかった。

矢野新監督は金本チルドレンを「一本立ち」させられるか

金本前監督は若手を見出し、次々と大抜擢していくことでチームを変えた。しかしあと一歩、育成の最終段階である「一本立ち」までは持ってくることができなかった。

暗黒期以来となる最下位を味わい、勝利に飢えたファンからは「補強を」の声も大きくなっているが、今はもう少しだけ我慢のときではないだろうか。もちろんウィークポイントを補う最低限の補強は必要だ。

しかし、続々と芽を出している金本チルドレンをひとりでも多く一本立ちさせ、道半ばに終わった金本前監督の若手育成を完成させることが、なによりの補強となるはずだ。

前回の阪神最下位は2001年。3年に及んだ野村克也監督時代の最終年のことだ。その2年後に、星野仙一監督の下で18年ぶりのリーグ優勝を達成。このときは星野監督が広島の金本知憲らを引っ張ってくる大補強を行ってチームを完成させたが、その前に最下位の3年間で、野村監督が矢野燿大を正捕手として徹底的に仕込むなど、戦力の土台をつくりあげていたことが今でも評価されている。

金本前監督も育成の種はまいた。矢野新監督の仕事次第で、前指揮官の評価もまた変わってくるだろう。