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阪神内野陣に世代交代の波。完全復活ロサリオの「リーダーシップ」が光る

2018 8/11 07:00青木スラッガー
プロ野球,阪神タイガース,ロサリオ,ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

阪神内野陣に世代交代の波。リーダーとなるのは?

阪神の内野手陣が世代交代の波を迎えている。二遊間の名手・大和はDeNAへ移籍し、長く絶対的レギュラーに君臨してきた鳥谷敬はベンチスタートが増えた。膝を手術した上本博紀は今季絶望的で、西岡剛も二軍調整中と、内野の各ポジションは若手に出場機会が広がっている。

チャンスを掴みかけているのは2年目26歳の糸原健斗、5年目27歳の陽川尚将、6年目24歳の北條史也の3人だ。遊撃手の開幕スタメンを勝ち取った糸原は、中盤戦から不動の「1番・二塁手」に定着。開幕二軍の陽川(三塁手)と北條(遊撃手)も中盤戦から打撃で結果を残し、後半戦は3人でスタメン出場を続けている。借金生活が続いている現在の阪神にとって、若い力の台頭は将来への明るい材料である。

だが、これから熾烈 (しれつ)なCS出場争いが予想される終盤戦に差しかかるところで、経験の少ない若手ばかりの内野陣には不安もある。ピンチのときにマウンドまで行って投手に声をかけ、ナインを引っ張っていく「精神的支柱」がいないのだ。生き残りをかけ自分のことで精一杯な若手たちに、そこまでの役割を求めるのは酷な話だろう。

そんな阪神の内野手状況だが、最近「リーダー」として頼りになる男が帰ってきた。主砲として期待されるも、打撃不振で6月初めから二軍調整となっていた28歳の新外国人、ロサリオのことである。

日本球界1年目のロサリオが発揮する内野のリーダーシップ

ロサリオはオールスター明けに一軍復帰。以降は打撃も復調気配で、一塁守備では頻繁にマウンドへ向かい、投手へ積極的に声をかける姿が目立っている。

先日もこんなシーンがあった。8月5日ヤクルト戦。阪神先発の小野泰己が立ち上がりに乱れ、初回2四球を出し先制点を献上すると、2回も簡単に2アウトを取ってから投手に四球を与えた。続く1番・坂口智隆にも連続四球を与えたところで、すぐにロサリオが一塁からマウンドに向かう。

一言二言、さっと声をかけるくらいならなんてことのない光景だ。だがロサリオはファーストミットで小野の腰を抱えながら、真剣な表情で顔を覗き込み、手ぶりを交えて熱く語りかけた。

……なかなか話が終わらない。順番に他の内野手と捕手も駆け寄って、マウンドに輪ができる。その「輪の中心」に立つロサリオは、集まってきた4人に対しても熱く何かを語る。最後は「行くぞ!」と言わんばかりにロジンバックを叩き、白い粉を飛ばしてマウンドを去っていった。

言葉がわからなくても「輪の中心」になる姿

もともと大リーグ時代、ロサリオは捕手だった。ロッキーズで2013~2015年にかけては正捕手として活躍。試合中のコミュニケーションに積極的で、間の取り方が上手いのも頷ける。

出身はドミニカ共和国。ロッキーズで5年間プレーし、その後2年間の韓国球界を経て阪神へやってきた。当然、日本語はまだあまり 話せないはずだ。日本から海外への逆パターンとしては川崎宗則が「言葉の壁」をものともしない姿を見せてくれたが、日本球界で1年目から「輪の中心」となってしまうような外国人選手はあまり記憶にない。

延長11回で劇的なサヨナラ勝利を飾った8月4日のヤクルト戦でも、ピンチを切り抜けた38歳の藤川球児に対し、ベンチに下がり際、肩をポンと叩いていくシーンがあった。年齢関係なく積極的にコミュニケーションを取り、年齢層が広いチームで良いムードメーカーとなっている。陽気な性格で、他の選手の活躍は自分ことのように喜ぶ。同戦で北條がサヨナラ犠牲フライを放ったときは、ベンチの誰よりも先に北條へ追いついて、満面の笑みでペットボトルの水を浴びせていた。

こういった光景は、気分よく試合に臨んでいる最近からというわけではなく、不振で苦しかったであろう序盤戦でもよく見られた。日本式の練習も進んで取り入れる勉強家で、試合では常に全力疾走。日本人、外国人を 問わず、これほど人間性に魅力を感じさせる選手も珍しい。

リーダーとして、若手の模範として、そして「主砲」として。

ここまでのロサリオは、推定3億4000万円とされる年俸に見合った活躍をしているとはいえない。しかし一軍に戻ってきた後は、上向いてきた打撃成績以上に、「内容」の面で今後期待したくなるものを見せている。

不振だった序盤戦は、日本で活躍できない外国人打者にありがちな「外のボール球を追いかけてしまう」悪癖 が目立った。再昇格してからは、別人のようにボール球も余裕をもって見逃せるようになっている。最近では広島のエルドレッドがそうだったが、変化球が多い日本の投手に対し「ボール球を追いかけない」感覚を掴んだことにより 、急激に適応 していく外国人打者は多い。

日に日に調子は上向き、5番に昇格した8月7日の巨人戦では来日初の満塁本塁打も飛び出した。大リーグでシーズン28本塁打を放ったこともある大砲の実力は、まだまだこんなものではないはずだ。リーダーとして、若手の模範として、そして「主砲」として。ずっと内野の要だった鳥谷がベンチに座ることが多くなった今、ロサリオのキャプテンシーとバットにチームの命運がかかっている。