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2番・青木の「しぶとさ」メジャーから持ち帰った新たな武器

2018 6/27 11:00青木スラッガー
青木宣親,ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

ヤクルト好調の裏に青木の2番起用

交流戦最高勝率を飾り、交流戦前のセ・リーグ最下位から逆襲の構えを見せているヤクルトだが、チーム状態が上向き出したのは、小川淳司監督が“ある試み”をはじめた時期と重なる。今季大リーグから復帰した、青木宣親の2番起用だ。

ヤクルト復帰後の青木が初めて2番に入ったのは、交流戦開幕を間近にした5月24日の阪神戦。この一戦は完封負けだ。しかし、ここからヤクルトは山田哲人と青木の1・2番コンビを固定すると、ロースコアゲームで確実に勝ちを重ねていくようになった。山田が一時離脱し、スタメンを外れる前(6月12日)まで新1・2番コンビで戦った17試合は、7連勝を挟む12勝4敗と大きく勝ち越している。

今季のヤクルト打線は青木加入の他、腰の手術で2017年シーズンを全休した川端慎吾の復帰もあり、下位まで名のある好打者が揃う豪華な並びになっている。それゆえ、どうすれば強力打線が一番力を発揮できるのか、小川監督は開幕から試行錯誤を繰り返していた。

青木も開幕時は4番を務め、4月後半から1番、5月に入ると3番と目まぐるしく打順を動き回った。役割を転々とすることは苦労もあっただろうが、2番固定からしばらく経った交流戦終盤は5試合連続マルチ安打を記録するなど自身も絶好調に。最後に回ってきた「2番」によって、チームにとっても青木にとっても、良い方向に歯車が回りだした。

ロイヤルズ時代もあった「2番・青木」の不思議な力

実はメジャー時代にも、青木の2番起用がチームの転機となる場面があった。メジャー3年目、ロイヤルズに加入した2014年のことだ。

不動の1番打者として、若いチームを終盤の地区優勝争いまで引っ張っていた青木。しかし、9月半ばにややチームの調子が落ちだしたため、ヨースト監督は大幅な打順変更を試みた。初めて青木を2番で起用した結果、チームは踏みとどまり、新打順のまま臨んだポストシーズンでは、ワイルドカードから怒涛の8連勝でワールドシリーズまで一気に駆け抜けたのだ。

青木も新打順編成直後の3連戦で11安打するなど、2番に入ってから打ちまくった。ロイヤルズが29年ぶりのポストシーズン進出を決めた試合では先制タイムリーを打ち、一発勝負のワイルドカードでは9回に起死回生の同点犠牲フライ。大事な時期に再三チームを救う働きを見せ、リーグ優勝のキーマンとなった。

ロイヤルズ監督が青木を2番で使った理由

2014年シーズンの青木は、リードオフマンを務めるためにロイヤルズへ呼ばれている。前年までブルワーズの2年間でリードオフマンとして結果を残し、ロイヤルズ加入後も高出塁率を武器に1番打者でその期待に応えていた。

そんな中、9月の一番大事な時期にヨースト監督が青木を2番で使ったのは、青木が持つ独特の「しぶとさ」を買ってのことだった。

メジャー時代の青木は、三振が極端に少ない打者として知られていた。これは、早打ちだからというわけではなく、しっかりボール球を見極め、くさいところをカットする能力に長けていたからだ。追い込まれてから厳しい勝負球で攻められてもいやらしく粘り、投手に多くの球数を投げさせることができるというのが、大リーグで青木が生き残る武器だった。

メジャー時代高く評価されていた青木の「しぶとさ」は2番で活きるか

メジャー挑戦前の青木は、レギュラーを掴んだシーズンの序盤戦以外ほとんど2番を打ったことはない。1番もしくは3番が大半で、球界最高の安打製造機としてヒットを生み出すことに集中し、首位打者3度という偉大な実績を残している。

しかし、大リーグではそうはいかず、ロイヤルズで2番を打った後は他球団でも様々な打順を任されるようになる。ヤクルトでは縁のなかった下位の打順も経験し、自分がヒットを打つだけでなく、つないで「他の打者を活かす」打撃にも力を入れなければならなくなった。

渡米前も選球眼が良く三振が少ない打者だった青木は、メジャーでも、自身の能力を武器に何年もレギュラーを守り抜いた。そういった経験を経たことで、現在の青木の粘り強さにはさらに磨きがかかっているはず。

客観的な指標で見ても今季の青木は、1打席あたり平均どれだけの球数を相手投手に投げさせたかという「P/PA」で、4.11球(6月26日終了時点)という優秀な数字を残している。山田やバレンティン、6月に入って調子を上げてきた川端といった強打者に挟まれ、青木が2番にいるヤクルト打線。まだ爆発とまではいかないが、今後の上がり幅はかなり大きく予想される。