エース級の活躍を見せるDeNAドラ1ルーキー・東克樹
DeNAのドラフト1位・東克樹がゴールデンルーキーの前評判に違わぬ快投を続けている。ここまで新人では田嶋大樹(オリックス)と並び、両リーグトップの5勝をマーク。早くもセ・リーグ新人王へまっしぐらという勢いになってきた。
東は新人王のみならず、投手タイトル争いに絡んでくる可能性もある。5勝目を挙げた6月8日の登板で防御率は2.01まで下がり、一時は菅野智之(巨人)を抜いてリーグトップに浮上。DeNAの勝ち頭であり、他球団のエースたちとも肩を並べる働きぶりを見せている。
東には、安定感を示す防御率の他にもうひとつ、傑出した数字を残している成績がある。身長170センチとプロとしては小柄ながら、最速150キロの直球を最大の武器に、打者を制圧する投球によって積み重なった「奪三振」である。
快投の秘密はリーグトップの「奪三振率」
東の奪三振で注目したいのは、リーグ3位74個の「奪三振数」ではなく、1試合(9イニング)あたりの平均奪三振数を表す「奪三振率」だ。
奪三振数自体はセ・リーグトップ菅野の89個と比べると開きがある。しかし奪三振率で見ると、東は9.25で菅野(8.80)を上回る。東の奪三振数が菅野より少ないのは、決して長いイニングを投げられないからというわけではない。東の1登板あたりの投球回は6.7イニングで、登板試合ではしっかりイニングを消化できている。ローテーション5人目として開幕を迎えたため、他球団のエースたちに比べて登板数が1つ少ないのだ。
シーズンを通して離脱がなければ、奪三振数は最終的にかなりのところまで到達しているだろう。このまま奪三振率をキープして170イニングも投げると、175奪三振の計算でタイトルを狙えるくらいになる。
安定感抜群で、奪三振能力は両リーグトップクラス。となれば、少し気が早いが、これからの活躍次第で後半戦の沢村賞争いに絡んでくる可能性もあるのではないだろうか。
新人年で沢村賞に輝いたのは歴代6名のみ
新人年での沢村賞選出は、1947年の賞制定以来、歴代6名しか達成していない大偉業である。最後の「新人沢村賞」は現役の巨人・上原浩治(1999年)だ。その前は野茂英雄氏(1990年)で、最近50年間では日米で偉大な実績を残したこの2名のみ。
野茂氏以前は1960年代まで遡り、新しい順に堀内恒夫氏、権藤博氏、堀本律雄氏、史上初は村山実氏という顔ぶれになっている。注目すべきは、この6人が全員右腕であるということだ。新人左腕で沢村賞に選出された投手はプロ野球史上1人もいない。
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沢村賞は、そのシーズン両リーグで最も活躍した「先発完投型投手」を選出する賞だ。7項目の選考基準(勝利数・防御率・奪三振・勝率・投球回・登板数・完投数)があり、例えば勝利数なら15勝など、それぞれで高い水準が求められる。
これらの基準はあくまで目安で、すべてをクリアする必要はない。ただし、上原以降から近年の沢村賞投手を見ると15勝以上は全員に共通しており(歴代でも15勝未満の沢村賞は1988年の広島・大野豊氏のみ)、ここに到達することがまずはスタートラインとなる。
球界屈指の奪三振能力を強みに新人王レースの「その先」へ
改めて、今季11登板を終えた東は現在5勝。両リーグトップは広島・大瀬良大地の9勝で、メッセンジャーら3人が8勝で続く。 やや勝利数では先頭集団に水をあけられている東だが、勝ち星は運にも大きく左右される成績である。運も味方に最低基準の15勝まで到達すれば、奪三振の多さから沢村賞争いで有力な存在になってくるのではないだろうか。
沢村賞選考基準の中で、「タフさ」を評価する投球回・登板数・完投数の3部門は、シーズンを通してプレーした経験がない新人投手にとって計算しづらい項目である。しかし東の強みである奪三振は、新人だからこそ数字を伸ばしやすい項目かもしれない。まだ他球団にデータが少なく、目が慣れていない対戦打者も多いからだ。
セ・リーグ新人王レースで、他の候補者たちを引き離しはじめている東。1年目にして球界屈指の奪三振能力を発揮している左腕には、その先にある沢村賞レースにも注目したい。