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阪神園芸を解説!~阪神戦を支える「縁の下の力持ち」

2018 2/9 17:19Mimu
甲子園球場
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雨のクライマックスで光った阪神園芸の仕事

2017年10月15日、クライマックスシリーズ1stステージ第2戦、阪神タイガースーDeNAベイスターズ戦は、さまざまな意味で印象に残る試合であった。両軍合わせて31安打の乱打戦。
序盤こそ阪神が主導権を握るものの、中盤からベイスターズが猛攻を見せ、7回表に一挙6点で突き放し、6-13と快勝した。

シーズン中であれば雨天中止になるほどの大雨だったが、日程の都合上中止にできない。試合は、大雨のなか行われた。グラウンドに水たまりができ、選手たちは泥まみれ。
外野の芝にも水がつき、選手が走る度に水しぶきが舞った。だがそんな状況の中でも、なんとか9回まで試合を行うことができたのは、阪神園芸のおかげである。

試合前からグラウンドの水抜きを行い、試合中もイニングごとに砂をまき、何度も何度も整備をした。以前からファンや選手の間で仕事の速さや丁寧さに定評があったが、この一戦で全国に知れ渡ることとなった。

トンボがけにも熟練の技

甲子園で試合を観戦したことがある方は、阪神園芸の普段の仕事を目にしたことがあるだろう。試合開始前やイニングの間、整備用トラクターに乗った職員さんやトンボ(グラウンド整備用の道具)をもった職員さんが、丁寧にていねいに土をならす。
整備が終わった後のグラウンドは、美しさを感じるほどだ。

阪神園芸は、このトンボがけにもこだわりを持っている。一見すると普通にトンボをかけているように見えるが、実は土をならしながら、高低差ができないように、高いところから低いところへ土を運んでいる。
単にスパイクの痕を綺麗にするだけでは、高低差ができてしまう。重点的にならしたところの土が、そうでないところより少なくなってしまい、イレギュラーの原因になることもあるのだ。

そのため高低差に細心の注意を払いながら、マウンドから外側に向かって緩やかな傾斜になるよう土を運ぶ。時には何メートルも離れたところから土を運ぶこともあるという。
高低差の見極めができるようになるには、数年以上かかるそうだ。これだけ丁寧にトンボがけをしているおかげで、甲子園の内野でイレギュラーが起こることはほとんどない。
スパイクの痕でイレギュラーすることはあっても、整備された場所でバウンドが変わることは皆無といってもいい。

土にこだわり、選手たちをサポート

何よりも素晴らしいのは、阪神園芸の土に対するこだわりだ。甲子園の土は黒土と砂をブレンドしており、年度によって土や砂の産地を変える。
黒土は岡山県日本原や三重県鈴鹿市、鹿児島県鹿屋、大分県大野郡三重町、鳥取県大山など。砂は甲子園浜や瀬戸内海の砂浜、中国福建省の砂を取り寄せることもある。

この土の配分は季節によっても変わり、雨が多い春は砂を多めにして黒土が泥にならないようにし、夏になると黒土を多くしてボールを見易くする。雨の予報が出ると、なるべく土を固めに整備するなど、天候にも細心の注意を払う。
選手たちが常に万全のグラウンドでプレーできるよう、休むことなく土にこだわっているのだ。

以前は、選手の要望によって土の状態を変えていたこともあった。85年に日本一に輝いた時の正遊撃手、平田勝男(現1軍チーフ兼守備走塁コーチ)は、柔らかい土を好んでいた。
土が柔らかければ、打球の勢いが吸収されるため、追いつきやすくなるからだ。2003年ごろは、岡田布彰(当時内野守備走塁)の要望で1-2塁間の土を固くしていた。
これは当時2番を打っていた赤星憲広が、少しでも盗塁時にスタートを切りやすくするためである。現在は内野全体を均等にならしているというが、選手たちのサポートという意味でも阪神園芸の存在は大きい。

土を選ぶポイントは「水はけ」と「吸水性」

土に対して強いこだわりを持つ阪神園芸が、土を選ぶ際に重視するポイントは、「水はけ」と「吸水性」のよさだという。水はけがよい土というのは、納得だろう。
もともとマウンドを中心として緩やかな傾斜になっているため、構造上すでに水はけがよくなるようになっているのだが、さらに水はけのいい土を使うことで、効率的に排水が行われる。

吸水性がよい土とは、表面に水がたまりにくいということでもある。グラウンド表面の土が乾燥すると、土の弾力性が変わってイレギュラーが起こりやすくなってしまう。
試合前や試合中にホースで水を撒くのは、それを防ぐためだ。ある程度水持ちが良いほうが、グラウンドの状態を維持するうえでは最適なのである。

1月から行われる大規模なグラウンド整備

「水はけ」と「吸水性」のよさを保つため、毎年1月ごろから大規模な作業が行われる。甲子園の土のほとんどを掘り起こし、それを耕すように丁寧に揉みほぐす。
土にさらに水の「含みしろ」が作られ、効率よく排水できるようになるという。

難しいのは、揉みほぐした土を固める作業である。自然の雨を使いながら、2月にかけてゆっくりとローラーで押し固めていく。
自然の雨を利用するのは、そのほうが満遍なくグラウンドの底までしっかりと水分が行き渡るからだ。水分が多すぎても少なすぎても、いいグラウンド状態にはならない。
そのため毎日天気予報を眺め、いつ土を固めればベストな水加減になるのかという見極めが大切になる。長年甲子園のグラウンドを守り続けた阪神園芸だからこそ、なせる業なのである。