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【日本シリーズ総括】ベイスターズとホークスの明暗を分けたもの

2017 11/24 14:57Mimu
野球観戦
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下馬評ではホークス圧勝だった日本シリーズ

日本シリーズ開幕前、多くの方はこう思っただろう。「ホークスの圧勝だろう」と。
2017年の日本シリーズ、パリーグ1位の福岡ソフトバンクホークスと、セリーグ3位のDeNAベイスターズとの顔合わせとなった。正直に言って、力の差は歴然。ベイスターズも短期決戦での強さが話題となっていたが、さすがに相手が悪すぎた。
実際に第1戦では10-1とホークスが圧勝。第2戦、第3戦は1点差での戦いとなったが、まだホークスには余裕があり、力の差を見せつけられていたように思う。ベイスターズはあっという間に3連敗を喫し、後がなくなった。

第4戦でベイスターズが初勝利!徐々に変わりゆくシリーズの流れ

しかし、第4戦目から流れが変わっていく。この日先発の濱口遥大が8回途中までノーヒットの快投を見せると、打線も桑原将志のシリーズ初ヒットを皮切りに、宮﨑敏郎や高城俊人が大暴れ、6-0と完封勝利を挙げた。
そして第5戦目、とうとう主砲が目覚める。0-1と1点ビハインドの4回、相手先発のリック・バンデンハークから、4番・筒香嘉智が逆転ツーラン。1度は2-4と逆転を許してしまうものの、6回にもリバン・モイネロからタイムリーツーベース。
ここまで抑えこまれていたサウスポーから大きな一打を放ち、試合の流れをガラリと変える。さらに宮崎もタイムリーで続くと、明石健志のエラーも絡んで5-4と逆転に成功。最後は山崎康晃が9回を抑え、1点差を守り切っての勝利となった。この2試合で、ようやくベイスターズらしさが戻ってきたように思う。

第6戦も序盤はベイスターズの流れで進むんでいたが……

福岡に帰っての第6戦目も、ベイスターズの勢いは止まらない。この試合は2回に松田宣浩のホームランで先制されものの、その後DHに入った白崎浩之がレフトスタンド中段へ放り込み同点。シーズンは1本も打てなかった男が、ここに来て大きな仕事を果たした。
さらに倉本寿彦・桑原将志でチャンスを作ると、3番ホセ・ロペスが2点タイムリーで1-3。投げてはこの日先発の今永昇太が素晴らしいピッチングを見せ、松田のホームラン以降は得点を許さず、2点リードのまま試合は終盤へ向かった。
だが試合が後半になるにつれ、ホークスも徐々に流れを呼び戻していく。8回裏、先頭の長谷川勇也がツーベースを放ち、今永をマウンドから引きずり下ろすと、その後ランナーが3塁まで進み、柳田悠岐のピッチャーゴロで1点を追加。 2-3と1点差に詰め寄った。

さらに9回表には、守護神であるデニス・サファテが登板。気迫のピッチングで球場の雰囲気を変え、9回裏の攻撃につなぐ。そして9回裏、マウンドにはベイスターズ守護神の山崎康晃。先頭のアルフレド・デスパイネはショートゴロに倒れ、1アウト。
だが続く4番・内川聖一の打席であった。低めのツーシームを上手く拾うと、打球はそのままテラス席へ。土壇場で飛び出した同店ホームラン。この1打に球場のボルテージは一気に最高潮に。こうなると完全にホークスの流れだ。
10回表、11回表はサファテがそのまま続投、合計3イニングの熱闘を見せると、11回裏に川島慶三がライト前タイムリーヒットを放ち、サヨナラ勝利で日本一を決めた。

ベイスターズとホークスの差とは

もし第6戦をベイスターズが勝利し、3勝3敗で第7戦を迎えていたら、本当にどうなっていたかわからなかった。3連敗からの4連勝も、十分に考えられたかと思う。それくらい、ベイスターズの勢いは本物であった。
しかし、そういった勢いに飲み込まれないのもホークスの強さである。冒頭にも書いたように、力の差は歴然だ。中でも顕著だったのは「守備力」「中継ぎ陣」「控え選手」だったように思う。特に2戦目は、守備で落としてしまったといっても過言ではない。

2点リードの7回の裏だった。2番手の三上朋也が先頭の明石にツーベースを打たれ、代わった砂田毅樹も柳田にタイムリーを浴びてしまい、1点差に。なおも1・2塁のピンチが続く。打席には2番の今宮健太、ベイスターズはこの回だけで3人目となるスペンサー・パットン。
今宮は初球攻撃。セカンドの柴田竜拓がこれを好捕、そのまま倉本に送ってゲッツー完成、となるはずだった。なんと倉本がこの送球を落としてしまい同点。そして中村晃にライト前タイムリーヒットを打たれてしまい、4-3とホークスに逆転されてしまった。
倉本はその後の試合では良い動きをしていた。この試合がよほど悔しかったのだろう。3戦目は12球粘った末にヘッドスライディングでタイムリー内野安打も放っている。
第3戦以降の守備が年間を通してできれば、ホークスとの差は縮まるはずだ。今後の守備の向上に期待していきたい。

安定感が欲しかった中継ぎ陣

中継ぎ陣にしても、リード時に1イニングを任せられる中継ぎ陣がパットン以外にもう1人いれば、展開は変わっていたかと思う。先発降板後、パットン・山崎康晃へとつなぐ中継ぎ投手の確立、これが課題となる。
今永や濱口らの先発投手は十分すぎるくらいに仕事をしたがゆえに、ブルペン陣の層の薄さがより浮き彫りになってしまっていた。特に三上、田中健二朗、須田幸太らは、昨シーズンに安定した成績を残していた分、しっかりと抑えてほしかったのが正直なところだ。

今シーズンの防御率は三上が5点台、田中が4点台、須田が8点台と安定感を欠いたが、昨シーズンは3人とも60試合近くに登板し、防御率2点台という成績を残している。本来であれば、それだけの力がある選手だ。
この経験を糧にしてほしい。エドウィン・エスコバーも好投を見せていたが、第6戦での連続四球が痛かった。 一方で6試合中5試合に投げ、防御率0.00の数字を残したのが砂田だ。第2戦では柳田にタイムリー、第6戦でもピッチャーゴロで同点に追いつかれてしまっているが、第4戦ではジョー・ウィーランドの後を受けて登板し、2・3塁のピンチを断ち切った。

第5戦でも石田の後を受けて登板し、3者凡退に抑えると、その後チームが勝ち越したために勝利投手となっている。苦しい場面での登板も多く、痛い1点を取られるシーンもあったが、このシリーズでは光るものを見せていたといってもいい。
中継ぎ陣は、決して駒が不足しているというわけではないので、彼らがどれだけ安定感を身に着けられるかがポイントとなる。

競争意識の高さもホークスの強さの秘密

そして最後に、控えの選手層だ。ベイスターズのレギュラー野手陣、特にクリンナップの破壊力は、12球団でも随一といっていい。しかし控えになると、少し力が落ちてしまう。
代打の1番手は乙坂智、クライマックスシリーズでは大活躍であったが、このシリーズでは残念ながらヒット無し。第6戦でのDH白崎の起用や、高卒1年目のルーキー・細川成也が打った2塁打、第4戦の高城の働きは見事であったものの、控えの選手たちに迫力がなかったというのは否めない。

一方でホークスは、第1戦で長谷川がホームラン、第2戦では明石が逆転の口火を切るツーベースを放った。第3戦では高谷裕亮が決勝2点タイムリー、そして第6戦では川島慶三がサヨナラタイムリー。彼らは確固たるレギュラーではないが、そういった選手たちもしっかりと活躍できいたのが印象的だ。
明石と川島はセカンドのレギュラーを争う立場であり、高谷も甲斐拓也との併用が中心。かつての首位打者・長谷川ですら、上林誠知の台頭もあり、今シーズンは23試合の出場にとどまった。
これだけの活躍を見せた選手ですらも、来シーズンも出場機会が保障されているわけではない。彼らにとっては、日本シリーズですらも競争の場なのである。
単純な選手層の厚さだけでなく、彼らが持つ競争意識の高さ。これこそが、ベイスターズにはない、ホークスの強さだろう。

最後の最後で明暗を分けた経験の差

守備力、中継ぎ投手、控えの選手層、そして競争意識の高さ、この日本シリーズで見えたベイスターズの課題だ。だが最後の最後でシリーズの明暗を分けたのは、「経験」ではないだろうか。短期決戦では何よりも勢いが大事だ。
そして第4戦、第5戦でのベイスターズの勢いは、明らかにホークスを上回っていた。だからこそ、第6戦で飛び出した内川のホームランは本当に大きかった。あれは内川だからこそ打てた1発だろう。
この勢いのまま第7戦までもつれてしまえば、シリーズの行方は全く分からない。それをわかっていながら、あの場面でホームランを打ててしまうのだ。技術の高さはもちろん、経験に基づいた読み、そしてあきらめない強い心。何度も場数を踏んできた内川だからこその1発だろう。
やはり日本一になるチームの4番は何か違う、思わずそう感じてしまうシーンであった。

この経験の差は、簡単に埋まるものではない。だが、ベイスターズもまだまだ若いチームだ。これからの伸び代は十分にある。
1つ1つの課題をクリアし、勝利を重ねていけば、いつか勢いではなく、実力で日本一をもぎ取ることができるはず。これからも注目のチームだ。