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ベイスターズの新戦術!?9番・倉本寿彦は大当たりだったのか

2017 11/10 12:24Mimu
>バッターⒸShutterstock.com
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今シーズン9番ショートに定着した倉本寿彦

2017年シーズン、2年連続のAクラス入りを果たした横浜DeNAベイスターズ。チームを率いたアレックス・ラミレス監督の采配は、本当に面白いものばかりであった。
特に彼の采配を象徴する選手といえば、倉本寿彦だろう。開幕直後は極度の不振であったものの、5月4日から9番ショートで起用されると、徐々に打撃が復調。結局シーズン終了までほぼ全試合で9番に座り(6月14日のロッテ戦のみ6番に復帰)、チームの勝利に貢献した。

定着する以前までの倉本の成績は、27試合で打率.202(94-19) 4打点というものだったのだが、9番に座って以降は116試合で打率.276(413-114) 2本塁打46打点と、比べ物にならないほどよくなった。
特に打点に関していえば、ポイントゲッターとなる6番でシーズンのほとんどを過ごした昨年に比べても、10打点以上多くなっている。

もともとは4月14日に打撃の良いジョー・ウィーランド(今シーズン3本塁打)を生かすために、1試合だけ8番・ウィーランド、9番・倉本として起用されたのだが、5月以降は投手に関わらず9番に倉本を起用し続けた。
クライマックス・日本シリーズでも、結局この打順は変わらないままだ。しかし、いまだ9番・倉本について疑問を持っているファンも少なくはないかと思う。今回は、この起用法の有用性について、検証してみよう。

9番・倉本のメリットとは

この9番・倉本のメリットは2つある。
攻撃が8番投手のところで途切れてしまったとしても、9番倉本から上位につながる打線で得点を狙うことが出来という点、そして7番に俊足の打者を置くことで、7番出塁→8番投手バント→9番倉本で返すことができるという点だ。

今シーズン、ラミレス監督は梶谷隆幸を2番で起用していた。梶谷には長打があるため、初回から1番・桑原将志が出塁した場合、バントをせずとも長打で得点を狙っていくことも出来る。
梶谷自身でチャンスメークしてクリーンナップにつなぐということも可能だ。そして、そこへさらに9番・倉本を置くことで、倉本‐桑原‐梶谷と繋ぐこともできる。倉本が疑似的に1番打者のような役割をはたすことに期待した打線だ。

さらに当初は7番に石川雄洋のような足の速い打者を置き、7番出塁→8番投手がバント→倉本で返すというパターンも期待していた。7番打者に足があれば、バントする投手のプレッシャーも減り、よりよい形で倉本に回る。これがこの打順の大きな狙いであった。

9番で光った勝負強さ

だが夏前ごろからさらに打線にテコ入れが入る。6月30日から筒香嘉智を3番に起用。2番には小技の使える柴田竜拓や田中浩康が入り、梶谷は7番へ。6月から桑原・筒香の2人が復調していたため、9番・倉本の出塁がより得点に結びつくような打順となったのだ。
実際に桑原は7月の月間MVPを獲得するほどに打ちまくり、ベイスターズもこの時期から一気に貯金が増え始めた。

しかし、出塁以上に、勝負強さの方が光っていたように思う。今シーズン、倉本はセリーグ2位となる得点圏打率.342(9番打者に定着以降は.375)、さらに自己最多となる50打点(9番に定着以降は46打点)を記録。昨年も得点圏打率.301を残していたが、今年はそれ以上である。

梶谷が7番に入ったのも大きい。彼が2番を打っていたときと7番を打っていたときの成績を比べると、打率こそ下がっているものの、出塁率は上がっている(2番時出塁率:.317→7番時出塁率:.343)。さらに梶谷の盗塁数はチームトップの21個。
盗塁にしてもバントにしても、2塁にいきさえすればワンヒットで帰ってくることができる。これによって、倉本の勝負強さをさらに生かすことが出来る形となったのだ。

8月以降は大活躍!要所でのタイムリーが光る

特に倉本の勝負強さが光っていたのは、8月からである。8月16日の中日戦でシーズン初のサヨナラタイムリーツーベースを放つと、8月24日の広島戦でも再びサヨナラ打となる2塁内野安打を記録。1か月で2度のサヨナラ打を放つ活躍を見せた。
ちなみに22日には筒香・ロペス・宮崎の3者連続ホームラン、23日にも梶谷のタイムリーツーベースでサヨナラ勝ちしており、3夜連続サヨナラ勝ちの締めくくりとなる一打を放っている。

さらに巨人が猛追してきた9月、13日に一度4位に転落してしまい、重苦しい雰囲気が漂う中、18日のヤクルト戦では2-2から勝ち越しタイムリーツーベースを放ち勝利に貢献。すると、ここからチームは息を吹き返し、4連勝で再び3位に浮上した。

そして10月1日の広島戦、この日はどれだけ点を取っても追いつかれてしまう苦しい展開だったのだが、7-7の同点から筒香に勝ち越しホームランが飛び出すと、その直後に倉本が点差を広げるタイムリー。
さらに8回にも二本目のタイムリーを放ち、これで13-7と試合を決めた。そしてこのタイムリーでシーズン50打点目にも到達。この勝利で3位も確定し、2年連続のクライマックスシリーズ進出に大きく貢献したのだ。

今シーズンの倉本の変化とは

今シーズンの倉本が光っていたのは、勝負強さだけではない。昨年に比べると、長打が多くなった印象だ。もともとは1年目から長打を狙い、1本足打法をとり入れていたのだが、全く結果が出なかった。
そのため、1年目終盤からすり足打法で逆方向へ打球を意識するバッティングへとスタイルチェンジ。その結果、2年目のシーズンは9月までは3割をキープするほどの高打率を残し、見事にブレイクをはたしたのだ。
そしてこの年の打球方向は、レフトへ流した打球が63本だったのに対し、ライトへ引っ張った打球はたったの32本と、極端な数字が出ている。

だが、今年はシーズン前から肉体改造や打撃フォームの研究に取り組み、再び長打を狙っていくスタイルを目指した。単打しか打てない6番は、相手投手からあまり怖がられないからだ。
その結果、序盤には絶不調になってしまったものの、最終的には2塁打の数を19本から27本と大幅に増加させることに成功。ライト方向への打球も47本と、引っ張る打球も目立つようになった(レフト方向へは37本)。より怖いバッターに成長したのは間違いないだろう。

倉本の活躍は間違いなくラミレス監督の功績

結論をいえば、9番・倉本が正解かどうかはわからない。長打力や勝負強さがアップしていることを考えると、打撃さえ復調すれば、昨シーズンのように6番に置いていた方が高い勝率を出せたのかもしれない。
しかしそれ以前に、他の監督であれば打撃が復調する前に倉本をスタメンから外していただろう。4月の倉本は、打率が2割前後で、守備でもミスが目立っていた。ファンからも、倉本を使い続けることに批判の声が上がっていたほどだ。

しかし、それでもラミレス監督は倉本を信用し続け、シーズン最後までフルイニングで起用を続けた。その結果、勝負強さや長打力が開花することとなったのだ。倉本を9番に置き続けた采配が正解かどうかはわからない。
だが1つ確実なのは、ラミレス監督が倉本をここまでの選手に育ててくれたということだ。今シーズンは、倉本の野球人生にとって、とても大きな1年になるだろう。そしてこの経験を生かして、野球選手としてさらにレベルアップしてほしいものだ。


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