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さまざまな角度から見る、オリックス・安達了一の守備力の高さ

2017 10/13 10:05Mimu
野球ボール,グローブ
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隠れた守備の名手、オリックス。安達了一

パリーグゴールデングラブ賞の遊撃手部門は、2013年から4シーズン連続でホークスの今宮健太選手が受賞している。広い守備範囲に強肩を生かしたあの守備は、誰の目から見ても素晴らしい。だが野球通の間では、この選手がゴールデングラブ賞を取れないのはもったいないと評されている選手がいる。オリックスバファローズの安達了一選手だ。

抜けたと思った打球が、次の一瞬にはアウトになっている。まるで魔法を見ているかのようだ。派手さはないが、守備範囲の広さでは今宮選手以上のものを持っている。今回は、この隠れた守備の名手である安達選手について紹介していこう。

UZRから見る安達了一の守備

安達選手の守備の凄さを語るのであれば、UZRという指標を使うのがもっとも分かりやすい。これは「同ポジションを守る他球団の選手たちの平均と比べて、どれだけ守備で失点を減らしたか」という指標である。
例えばUZRが+10であれば、同ポジションの平均的な守備力を持つ選手に比べ、守備で10点を防いでいるということになる。反対に-10という数字が出ていれば、失点を10増やしてしまっているということだ。UZRは「範囲」「併殺」「失策」にそれぞれ得点のプラスマイナスを着け、その合計で算出される。

今回は安達選手のUZRや今宮選手のUZR、あるいは他のショートの選手たちのUZRを紹介してく。まずは安達選手が初めて1年を通してレギュラーに定着した、2014年の数字から見ていこう。

2014年
・安達了一 UZR:22.2 (範囲:22.6 併殺:-2.1 失策:1.7)
・今宮健太 UZR:17.8 (範囲:15.0 併殺:-3.6 失策:1.9)

両者ともに素晴らしい数字を誇っているが、やはり安達選手の方がワンランク上の数値を残していることがわかる。ちなみにこの年は安達選手が12球団で1位、今宮選手が12球団2位の数字だ。

毎年のように高い数値を誇っている

では他の年はどうなのだろうか。2015年、2016年の数字も見てみよう。

2015年
・安達了一 UZR:26.1 (範囲:18.2 併殺:6.9 失策:1.1)
・今宮健太 UZR:10.9 (範囲:11.3 併殺:-2.2 失策:1.9)
・坂本勇人 UZR:32.3 (範囲:25.0 併殺:6.0 失策:1.3)※12球団1位

2016年
・安達了一 UZR:14.8 (範囲:18.0 併殺:-3.6 失策:0.4)
・今宮健太 UZR:2.2 (範囲:3.7 併殺:-3.4 失策:1.9)
・中島卓也 UZR:15.9 (範囲:10.8 併殺:1.2 失策:3.9)※12球団1位
・坂本勇人 UZR:15.1 (範囲:10.8 併殺:3.2 失策:1.1)※12球団2位

2015年に関しては、坂本選手が32.3という数字を残して12球団で断トツの数字を残した。だが安達選手が12球団2位、今宮選手が12球団3位と、2人とも高いレベルを誇っていることが分かる。

2016年は、今宮選手の数字が大幅に落ちているところに目がいく。シーズン中から下半身の張りや右肘の痛みで試合を欠場していたところを見ると、あまり無理はできなかったのだろう(オフに右肘遊離軟骨除去手術を受けている)。

そんな中で、安達選手は日本ハム・中島卓也選手に次ぐパリーグ2位、12球団では3位の位置につけた。特にこの年は1月に潰瘍性大腸炎という難病を発症してしまい、一時は選手生命すらも危ぶまれたが、驚異的な回復力を見せて4月上旬には早くも復帰。以前と変わらない高い守備力を見せてくれた。

2017年は源田壮亮の加入でさらに激化

最後は2017年のUZRを見てみよう。(数値は8月31日時点のもの)

・安達了一 UZR:9.2 (範囲:4.9 併殺:0.2 失策:3.4)
・今宮健太 UZR:5.6 (範囲:0.7 併殺:1.0 失策:4.7)
・源田壮亮 UZR:19.9 (範囲:17.5 併殺:2.9 失策:-0.5)※12球団1位
・坂本勇人 UZR:10.5 (範囲:7.2 併殺:1.3 失策:2.1)※12球団2位

となっている。西武ライオンズのルーキー、源田壮亮選手が堂々の1位だ。そして安達施主はパリーグ2位、12球団では3位と例年並みの位置につけている。数値上では例年より低くなっているように見えるが、UZRはあくまでリーグの平均と比較しての数字。
源田選手のように、広い守備範囲を持つ選手が新たに加入すれば、相対的に今宮選手や安達選手の数値は下がっていってしまうということだ。

もちろん指標だけで選手の優劣を判断することはできない。UZRも万能の指標ではなく、ポジショニングの上手さなどは考慮されないという点もある。
だが、様々な要因で上下するこの数字ですらも、安達選手は毎年のように高い数値をたたき出しているということを考えると、その守備能力の高さに関して。疑うべき余地がないことがわかってもらえるだろう。

一切無駄な動きのない守備

指標だけでなく、実際のプレーでの安達選手の凄さも紹介していこう。安達選手の守備の凄さは、捕ってから投げるまでに一切の無駄がないということだ。ギリギリの打球でも、追いついてからすぐに送球することができる。
送球は無理せずワンバウンド、ファーストの正面にしっかりと捕りやすい球を投げている。派手さはないが、難しい打球でも軽く処理してしまうのが安達選手の凄さだ。

この無駄のない動きを実現しているのが、グローブの使い方だ。実を言うと、安達選手はゴロを捕球するとき、ボールをしっかりとつかんでいない。グローブの面に当てて、最後に軽くつかむくらいだ。いわゆる「当て捕り」いう技術である。
シングルハンドで捕球するときはさすがにしっかりとつかんでいるのだが、正面に回り込んだ時は、ほとんどが当て捕りで捕球しているのだ。こうすると、捕ってから投げるまでの時間を大幅に短縮することができる。

安定した送球にも秘密が

送球にも秘密がある。安達選手は送球する際、必ずしも2本指でボールを握るのではなく、場合によっては指3本や、わしづかみで送球を行うようだ。良い回転の送球にはならないが、不安定な体制の中でもしっかりとコントロールされた送球を投げることができる。
ボールをしっかり握ろうとすると送球までに時間がかかるし、ボールが手に使いない中で無理に2本指で投げようとしても、悪送球になってしまう確率は高い。そのため、ボールがある程度手についていなくても、送球に入ることができるように、普段の練習からあえて3本指やわしづかみで送球をしているようだ。

さらに、送球時のステップにも意識をおいているようだ。プロ入り以前の安達選手は、ステップの時に飛んでしまうクセがあった。だが今では反対に、「飛ばないステップ」を意識しているという。
ジャンプで勢いをつけるのではなく、送球時にきちんとファーストの方を向き、そこに体重を乗せて送球する。送球に勢いはなくとも、1つ1つの動作に無駄がないため、しっかりとアウトを取ることができるのだ。

意外性のある打撃と野球好きを唸らせる守備力

このように、安達選手は捕る・投げるという基本動作を究極にまで短くし、ここまで守備力を向上させてきた。実はこれらはプロ入り後にコーチらとの特訓によって身につけてきた、たゆまぬ努力の賜物なのである。もともとの俊足を生かした守備範囲に加えて、プロで身につけた技術。これらが安達選手の守備力を構成している。

安達選手といえば、パンチ力のある打撃も持ち味で、意外なところで派手な活躍をすることが多い。だが守備では堅実さと範囲の広さを両方持ち合わせた、どちらかといえば玄人好みの選手だ。そういった2面性があるのも、安達選手の魅力だろう。


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