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ドラフトにおける一本釣りを振り返る

2017 8/3 12:07cut
野球ボール
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競合を避け一本釣りを取る戦略

2016年のドラフト会議において1番の目玉だった創価大・田中正義選手は5球団競合(ソフトバンク、日本ハム、巨人、広島、ロッテ)、明治大のエース・柳裕也選手が2球団競合(中日、DeNA)となった。抽選の末に田中選手は福岡ソフトバンクホークス、柳選手は中日ドラゴンズが交渉権を獲得。両選手の抽選に外れた5球団は桜美林大の佐々木千隼選手に入札し、ハズレ1位で史上最多となる5球団が競合した。抽選の結果、佐々木選手はロッテが引き当てている。

このように、目玉選手は複数球団が抽選に外れるリスクと戦いながら入札を行っていく。

2016年ドラフトでは各球団が牽制しあった結果、田中選手に入札が集中した。ロッテ・伊東勤監督は「佐々木選手の方に指名が集中すると予想したから田中選手へ入札した」という趣旨の発言をしている。佐々木選手に入札を行っていれば一本釣りも可能だったわけだ。

2016年ドラフトでは目玉の一本釣りとはならなかったが、過去には大物と呼ばれながらも様々な事情があり、指名を回避し結果的に一本釣りとなったケースもある。今回は、ドラフトにおける有望選手の一本釣りを振り返ってみたい。

ダルビッシュ有選手を一本釣り!

いまや、メジャーリーグを代表する投手にまで成長したダルビッシュ有選手(レンジャーズ)。そのダルビッシュ選手は、2004年のドラフト会議で北海道日本ハムファイターズから1巡目指名され入団に至った。1年目の中盤から先発ローテーション入りを果たすと、2年目から6年連続二ケタ勝利、3年目からは5年連続で防御率1点台の記録を残し、ポスティング制度で海を渡った。

プロ入り前の東北高校時代には1年生時からベンチ入り。2年春夏、3年春夏と甲子園に4回出場。大舞台ではノーヒットノーランを達成するなど実力を発揮し、注目を集めていた。

ダルビッシュ選手がドラフトに掛かる2004年のドラフトは大学生、社会人に限り自由獲得枠が各球団2名まで認められていた。自由獲得枠を利用した球団は1巡目指名ができない。そのために、高校生のダルビッシュ選手を指名できる球団は限られていたのだ。

自由獲得枠を利用しなかった球団は4球団(日本ハム、ソフトバンク、西武、広島)。その4球団が誰を指名するか注目が集まったが、ダルビッシュ選手には日本ハムのみが入札。結果的にメジャーリーガーを一本釣りとなった。

ダルビッシュ選手の実力はどの球団も認めていたものの大学生、社会人の自由獲得枠を優先したために1巡目で高校生の指名ができなかったのだ。また、入団1年目のキャンプ中に喫煙、パチンコが報道されたように素行面の悪さで回避した球団があるとも言われている。

しかし、入団後のダルビッシュ選手は日本ハムの期待に応え、世界を代表する投手までに成長した。これは、球史に残る一本釣りと言えそうだ。

メジャー志望の大谷翔平選手を強行指名!

近年で最も話題となっている選手と言えば、日本ハムの大谷翔平選手だろう。第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は故障により辞退となってしまったが、2016年シーズンは二刀流として活躍。史上初の投手、指名打者二部門でベストナインを受賞するなど、球界の歴史を覆す輝きを見せている。

また、あと数年でメジャーリーグ挑戦が囁かれており、メジャーリーグからも注目を浴びている存在でもある。

その大谷選手は2012年ドラフト会議で、日本ハムから1位指名を受け入団に至っているがそれまでには紆余曲折があった。

花巻東高校でプレーしていた大谷選手は2011年夏の選手権、2012年春のセンバツと2度の甲子園に出場。春のセンバツでは春夏連覇を達成することになる、大阪桐蔭高校・藤浪晋太郎選手(現阪神)から本塁打を放つなど打者としての実力を見せた。また、最後の夏は甲子園に手が届かなかったものの、岩手県予選において160キロをマークするなど、投打共にプロからも注目されていた。

しかし、ドラフト前に大谷選手は、高校の先輩である菊池雄星選手(西武)同様にメジャー志望を表明。複数球団との面談を行い意思の堅さを強調した。しかし、ドラフト会議では日本ハム1球団が強行指名。大谷選手は拒否を貫いていたが、球団との面談の結果入団に至っている。この面談時に日本ハムが使用した資料「大谷翔平君 夢への道しるべ?日本スポーツにおける若年期海外進出の考察?」は球団ホームページ上でも公開されており大きな反響があった。

メジャー志望の大谷選手を一本釣りし、入団後スーパースターに育て上げた球団の手腕はさすがと言えるだろう。

目立つのは広島の一本釣り!

過去、広島東洋カープの1巡目指名は「一本釣り」が多く見うけられる。2016年こそ田中選手を指名し抽選で外れたが、前田健太選手(2006年高校生ドラフト)、今村猛選手(2009年)、野村祐輔選手(2011年)、岡田明丈選手(2015年)と主軸へ成長した選手達を抽選なしで獲得に成功している。

2006年の高校生ドラフトでは駒大苫小牧高校・田中将大選手(現ヤンキース)に注目が集まる中で、PL学園のエースだった前田選手を指名。入団後数年でエースとなり現在は海を渡りメジャーリーグで活躍している。また、2011年ドラフトでは東海大・菅野智之選手(現巨人)、東洋大・藤岡貴裕選手(現ロッテ)と共に大学ビッグ3と称されていた明治大のエース・野村選手。しかし、ふたを開けると競合はなく一本釣りとなった。

このように、広島のドラフトは目玉選手に入札をしつつも数年ごとに一本釣りを成功させていると言えそうだ。

大学進学志望を一本釣り

PL学園高校時代に清原和博選手(元オリックス)とともに「KKコンビ」として活躍した桑田真澄選手。ドラフト前には大学進学を表明していたため、指名を予定した球団は桑田選手への入札を回避。しかし、読売ジャイアンツ1球団のみが桑田選手へ入札。清原選手はあこがれの巨人から指名されなかっただけでなく、チームメートだった桑田選手が巨人と秘密裡に約束が交わされ、単独指名されたことが悔しく、涙を流した。

福岡ダイエーホークス、シアトルマリナーズ、阪神タイガースで活躍した城島健司選手。別府大付属高校時代に甲子園への出場はなかったものの、強肩強打の捕手として注目を浴びていた。当初は大学進学と見られており、駒澤大学への推薦も決まっていたがダイエーは強行指名する。城島選手は大学進学ではなくプロ入りを選択し名捕手への道を歩んでいく。

一歩間違えれば1位指名を無駄にしてしまうかもしれない「強行指名」からの、一本釣りも多く存在する。

ドラフトでは目玉選手の抽選、意外な掘り出しもの、見どころは多々あるが、大物選手の一本釣りもその一つだろう。一本釣りでいくか重複指名による抽選のリスクを選ぶか、各球団の戦略、駆け引きにも注目していきたい。