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トレンドは「丸首」?100回大会から見る高校球児ファッション移り変わり

2018 8/30 07:00青木スラッガー
大阪桐蔭,2018年,ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

高校球児だって「オシャレ」がしたい

朝制服を着て登校し、授業が終われば急いでユニフォームに着替え、練習を終えるとまた制服やジャージに着替えて、夜遅くに帰宅する。土日も朝から晩まで練習や試合。甲子園を目指し、そんな毎日を送っている高校球児は、外で私服を着る機会などほとんどない。

ファッションとは無縁の世界に生きている人たち……と思うところだが、実は高校球児というのは、なかなかオシャレに敏感である。

球児がオシャレをするのは、グラウンドの上だ。ユニフォームの着こなしにも時代によってトレンドの移り変わりがある。球児たちは敏感にそれを察知して、かっこよくユニフォームを着こなそうと、意外と気を配っているものなのだ。

「着崩す」トレンドが去り、自然にユニフォームを着こなす時代に

筆者が高校球児だった2009~2011年は、ユニフォームを着崩すトレンドの最盛期だった。

「着崩し」とは、わざと服装を乱したり、本来の用途とは違った形でアイテムを活用すること。簡単にいえば、「不良っぽさ」の演出である。

とはいっても、学校の制服のようにシャツを出したり、腰でユニフォームを穿いたりすれば監督コーチに怒られてしまう。そこで、唯一自分の好みにいじることができるのが「帽子」だ。

野球帽は適度にツバを曲げることで、自分の頭の形になじんで被りやすくなる。これが2000年代に入ったあたりから、徐々にエスカレートし、深く折り曲げすぎてとんがったツバがスタンダードになっていった。同時に、マークの上あたりに洗濯バサミを何個も留めて保管し、型を付けるのも流行りはじめた。

さらにこの時代は、季節問わずタートルネックのアンダーシャツを着る流行りもあった。

夏にタートルネックを着用することで得られるメリットは、特にない。ただ暑いだけである。しかし当時はこれがなぜか「かっこいい」とされ、筆者の野球部も「記念撮影はタートルネック着用で統一」という謎のルールがあった。

大阪桐蔭,2007年,ⒸYoshihiro KOIKE

最近の甲子園を見ていると、こういった「着崩し」の高校球児ファッションは徐々に時代遅れになっていると感じる。タートルネックは絶滅し、帽子のツバ曲げ、型付けもソフトになった。眉毛を細く剃る球児も一時期よりは少ない。

自然にユニフォームを着こなす傾向になってきたのではないだろうか。

最近はメジャー流「丸首アンダーシャツ」がトレンド

最近の高校球児ファッションはどうなっているのか。

現在はタートルネックに代わり、丸首アンダーシャツ全盛の時代。球児が丸首を着るようになったのは2015年あたりからだ。

もともと、丸首は大リーガーのスタンダードである。日本ではプロ野球もずっとハイネックが主流だった。しかし大リーグの影響か、ここ5年くらいで少しずつ丸首着用選手が増え、ついには多数派に。それに高校球児も倣う流れとなっている。

特に今大会は、丸首の選手が圧倒的多数派になったと感じた。

大阪桐蔭,2018年,ⒸYoshihiro KOIKE

また、過度な帽子のツバ曲げや型付けが落ち着いたのと同時に、頭の形に沿った丸い大リーグスタイルの帽子を採用するチームが増えた印象がある。今大会では創成館、常葉大菊川、前橋育英などがこのタイプだった。

昨年あたりから急増したものとして、凸凹がないフラットな見た目の捕手用プロテクターというものもある。

これはゼット社製のもので、ブロック型クッションの角にボールが当たり、予想外の方向に弾いてしまうリスクを減らせる最新アイテムだ。

今大会でゼット社のプロテクター使用シェアは41パーセントと圧倒的だった。しっかり機能的な目的はあるのだが、実際は「かっこいい」からと、ファッション感覚で選んだ球児も多いのかもしれない。

ユニフォームのサイズ感は「ピチピチ」トレンドが続く

最も球児たちがこだわるのは、ユニフォームの「サイズ感」である。

現在のトレンドは「ピチピチ」。おそらく2008年頃からの流行ではないだろうか。歴代の甲子園を振り返ると、2006年の斎藤佑樹、田中将大くらいまでは、もっと皆ゆったりしたサイズ感だった。

ところが2008年に大阪桐蔭が17年ぶりの夏制覇を飾ると、浅村栄斗らピチピチユニフォームの大阪桐蔭ナインに影響されてか、流れが変わった印象がある。

あの鍛え抜かれた筋肉が浮かび上がるサイズ感は、実はユニフォームのデザインによって演出されているわけではない。

180センチあるような選手が、わざわざSサイズを選んでタイトに着こなしているのだ。

球児は勝つために、グラウンドで「オシャレ」する

トレンドに逆行し、メンバー全員が大きめのサイズ感でユニフォームを着こなしている名門校もあった。春夏通算100勝の偉業を達成した、龍谷大平安である。

龍谷大平安は昔からユニフォームの着こなしがゆったりしている。袖がひじの近くまでかかり、上下ともできる“しわ”の数がどのチームよりも多い。

110年の歴史を誇る名門らしく、流行に左右されずユニフォームはキチンと着ようということなのかとも思ったが、それだけではないようだ。。

ゆったりめのサイズ感は体を大きく見せる。ガタイの良さアピールするため「ピチピチ」に着こなすのと、根底にあるマインドは同じである。

高校球児にとってファッションとは、自分たちが上手い選手、強いチームであると相手に見せ、精神的に優位に立つための工夫でもあるのだ。

そういう意味でグラウンドでの「オシャレ」意識は、勝つために大切な心掛けなのである。