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2017年甲子園まとめその1 歴代最多本塁打数!今後は打力が重要に

2017 9/13 14:03Mimu
高校野球,バッター
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花咲徳栄vs広陵となった決勝戦!主導権は終始花咲徳栄に

まずは決勝戦を振り返ってみよう。決勝は埼玉代表の花咲徳栄と広島代表の広陵高校が激突、いずれも勝てば初優勝という顔合わせとなった。試合は初回から太刀岡蓮選手、千丸剛選手、西川愛也選手の3連打で2点を先制すると、3回にも5番・須永光選手のタイムリーで2点を追加。広陵先発の平元銀二郎選手から4点を奪う。投げては先発の綱脇慧選手が4回まで2失点と粘投し、花咲徳栄ペースで試合は中盤へ。

試合が大きく動いたのは5回だ。またも太刀岡選手が四球で出塁すると、千丸選手ライト前、そして西川選手がタイムリースリーベース。初回と同じ3人で中押しの追加点を奪う。さらに4番・野村佑希選手、6番・高井悠太郎選手、9番・岩瀬誠良選手もタイムリーで続き、この回一挙6得点。調子が上がらない平元選手を一気に叩き、10-2と大量リードを奪った。

その裏の広陵の攻撃、先頭の1番・高田誠也選手がヒットで出塁したところで、花咲徳栄の投手が背番号1を着けた清水達也選手にスイッチ。流れを広陵に渡さない。
清水選手は2番・吉岡広貴選手にタイムリーを打たれるものの、後続を切って取り、1失点でしのぐ。その次のイニングにも1点を失ってしまったが、好調の打線がさらに4点を追加し、14-4とリードが10点に広がっていく。広陵を粘りを見せ、9回には満塁のチャンスを作るものの、後1本が出ずにゲームセット。花咲徳栄が初優勝の栄冠を手にした。

広陵は初優勝ならず……だが中村奨成は32年ぶりの記録更新

一方で広島県代表の広陵高校は2007年以来の決勝進出、佐賀北高校に劇的な満塁ホームランを浴びて敗戦して以来の決勝戦であったが、残念ながら10年前のリベンジとはならなかった。それでも、3番を打つ中村奨成選手が大会新記録となる6本塁打を放ち、1985年に清原和博さんが打ち立てた記録を32年ぶりに更新。この試合でも、中村選手が打席に入る度に球場全体がざわつき始めたほどであった。

そして、中村選手のみならず、この大会では本当にたくさんのホームランが飛び出した。ほぼ毎日、どこかの試合でホームランが飛び出していたのではないだろうか。それまでの大会でもっともホームランが多かったのは2006年で60本であるが、今年は68本ものホームランが飛び出した。こちらも11年ぶりの更新となる。

初日から3試合で5本のホームランが飛び出したほか、1試合で2本のホームランを放つ選手も少なくはなかった。1回戦では広陵の中村選手に、2回戦では神戸国際大附属の谷口嘉紀選手、天理高校の神野太樹選手、青森山田の中沢樹希也選手、済美の亀岡京平選手、4回戦では盛岡大附属の植田拓選手、準々決勝では天理の山口乃義選手、そして準決勝では再び広陵の中村選手が2ホーマーを記録。7人の選手たちが、1試合2本塁打を放った。

ホームランの打ち合いとなった名試合

この打撃優位の象徴となったのは、盛岡大附属ー済美高校の試合だろうか。この試合は2回裏にに済美のエース・影山尭紀選手の2点タイムリーで先制。しかし盛岡大附属も直後の3回表にショートのエラーで1点を返し、1-2と済美の1点リードで中盤へ向かう。そして5回であった。

盛岡大附属は1番・林一樹選手、2番・大里昂生選手、3番・植田拓選手の連打で1点を返し同点とすると、1アウト後に5番・松田夏生選手が四球で歩き、満塁のチャンスを作る。ここで打席には6番・小林由伸選手。2ボール1ストライクからの4球目、インコースを狙ったストレートが真ん中に甘く入る。振り抜いた打球はレフト飛び込む、勝ち越しのグランドスラム。この回一気に6-2と4点の勝ち越しに成功した。

史上初!1試合に2本の満塁ホームラン

だが強打を誇る済美高校も黙ってはいない。2番・宇都宮佑弥選手のツーベースですかさず反撃に出ると、四球とエラーでこちらも満塁のチャンスを作る。ここで5番・吉岡秀太朗選手、こちらも2ボール1ストライクからの4球目、外のスライダーであった。打球はセンターバックスクリーンへと飛び込む満塁ホームラン。
目には目を、グランドスラムにはグランドスラムを。豪快な1発で、済美高校が同点に追いつく。夏の甲子園で1試合に満塁ホームランが2本出るのは史上初のことだ。

その後7回裏に済美の2番・宇都宮選手の1発で勝ち越すと、9回表には盛岡大附属の3番・植田選手が1発を放ち同点。激しい打ち合いとなり、試合は延長戦へと突入する。だが決着がつくまでに、それほど時間はかからなかった。
10回の表、盛岡大附属の攻撃。途中出場の9番・三浦奨選手がヒットで出塁すると、暴投で2塁に進んだ後、1番・林選手のタイムリーで勝ち越し。さらにその後エラーと盗塁で2・3塁のチャンスを作ると、9回に同点ホームランを放った植田選手が2打席連発となるスリーラン。これで12-7となり勝負あり。この試合で済美高校は2本、盛岡大附属は3本、両者合わせて5本のホームランが出る豪快な試合となった。

選手たちの打力向上!今後は打撃力のチームが大会を制す

なぜこれほどまでにホームランが飛び出したのだろうか。やはり単純に、選手たちの打撃力向上が、もっとも大きな要因だと言われている。ウエイトトレーニングなどはどの高校でも当たり前に取り入れているだろう。しかし近年は守備練習よりも打撃練習を重視している高校も多く、選手たちの体格も技術も、今までより格段に向上している。それでもなお、68本という数字は驚異的であるが……。

本数はともかくとして、今後は間違いなく打撃力の高いチームが主流になってくるだろう。大阪府大会予選、大阪桐蔭高校を苦しめた府立大冠高校は、強力打線が売りのチームであった。代表校で興味深かったのは、滋賀代表の彦根東高校だろうか。学校のすぐ近くに彦根城があり(というより、城の中堀と内堀の間に校舎が建てられている)、なおかつグラウンドが狭いため、観光客に配慮してグラウンド内でのバッティング練習が禁止となっている。
そのため、選手たちは近所のバッティングセンターに通い、そこで練習していたようだ。また、立命館大学のスポーツ健康科学部と提携し、体を大きくするための「野球食」なるものも導入しているという。選手達の体格はどんどん大きくなり、さらに打球の力強さが増していった。

公立高校というと、高い守備力で守り勝つ野球をするというイメージがあった。だが彦根東の選手たちは、秋の大会で1回戦敗退を機に自分たちに何が足りないかを考え、勝ち上がるにはバッティングの向上が必須という結論に至ったようだ。そうして恵まれない環境ながらも、いろいろな人たちに支えられ、練習に励んだ。今後の公立高校チームのあり方を考える上でヒントになる、良い例である。

花咲徳栄も強力打線で優勝を達成

ちなみに優勝した花咲徳栄打線も、ホームランこそ少ないが(決勝までで4番・野村選手の2本のみ)、打線は非常に強力だ。決勝までの6試合すべてで9点以上取った。

初戦 開成(島根) 9-0
2回戦 日本航空石川(石川) 9-3
3回戦 前橋育英(群馬) 10-4
準々決勝 盛岡大附属(岩手) 10-1
準決勝 東海大菅生(西東京) 9-6
決勝 広陵(広島) 14-4

チーム打率はなんと.351、安打も80を数えた。1番の太刀岡蓮選手から9番の岩瀬誠良選手まで打線に切れ目がない。特に注目したいのが打点だ。
チーム最多打点は3番の西川愛也選手、6番の高井悠太郎選手の10打点であるが、9番の岩瀬選手も7打点を記録しており、下位打線でもしっかりと点を取れていることがわかる。これからは守り勝つ野球よりも、打ち勝つ野球が主流になっていくだろう。