派手さはなくとも勝たせる投球
「評価していただけるなら、たとえ育成でも上(プロ)で勝負したい気持ちはあります」
その謙虚過ぎるコメントからも、彼の背中を押さずにはいられない。
大阪ガス・温水賀一(ぬくみずかい)のことだ。
セットポジションから足を上げ、重心の位置を確認するように膝下を振り子のように二回振る。その投球フォームは同社の先輩で現千葉ロッテの酒居知史を彷彿させる。
「人づてで酒居さんがフォームで意識しているポイントと自分が意識しているポイントが一緒だって話を聞いたので参考にさせていただきました。You Tubeとか動画サイトを見ながら力感とか自分なりに研究しています」
温水と酒居の共通点はピッチングフォームがいわゆる二段モーションであることだ。両者の投球フォームを見比べると確かに二人はよく似ている。
さらに温水が注視している部分を掘り下げると、左足を上げてから踏み込むまでの間の部分、体の使い方を特に参考にしているという。
この件について酒居にも話を振ってみると彼からはこんな答えが返って来た。
「内もも(内転筋)を使えているか、そこで粘れているかですかね」
投手の場合、しっかり内転筋を使うことで高めにボールが抜けることが減り、低めに伸びのある強いボールを投げることが出来ると言われている。
酒居の好調時を見ていると、両サイド低めのボールゾーンからまるで浮き上がって来るかのようなボールをよく投げているのだが、これは今季の温水を見ても同様で、ストレートこそ最速が140キロ後半と派手さはないが、両サイドの低めに強い球をしっかり投げ分けている点は酒居の好調時と被る。これも今季、彼が頭角を現したひとつの要因とも言える。
さらにこのストレートを活かすように鋭い変化球をストレートと同じ軌道から縦に落とすことも出来ている。
今年4月のJABA岡山大会準決勝のニチダイ戦でも10個の三振を奪って4安打完封勝利。7月に東京ドームで行われた都市対抗野球でも4試合20回1/3を投げて21個の三振を奪うなど奪三振率は高い。
制球も内転筋を使った良い投球フォームで投げられているせいか安定しており、試合で大崩れすることも少ない。ドラフトに向けて名前が上がって来なかったのが不思議なくらいである。
それでも本人は「三振を狙うタイプではない」と俯瞰的に自分を捉えている。
「力んだところで150キロ出せるピッチャーじゃないですし、いつもどおり打たせて取るピッチングを意識して試合に向かっています」
マウンドでは常に平常心。自身の投球スタイルを見失うことはない。
「派手さはないけど勝てるピッチャー」と、巷で彼が評されるのはそのようなスタイルが確立されているからともいえるだろう。