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背中を押したい確かな実力 ドラフト候補・温水賀一「育成でも勝負したい」

2018 10/25 11:00永田遼太郎
京セラドーム大阪,ⒸShutterstock.com
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派手さはなくとも勝たせる投球

「評価していただけるなら、たとえ育成でも上(プロ)で勝負したい気持ちはあります」

その謙虚過ぎるコメントからも、彼の背中を押さずにはいられない。

大阪ガス・温水賀一(ぬくみずかい)のことだ。

セットポジションから足を上げ、重心の位置を確認するように膝下を振り子のように二回振る。その投球フォームは同社の先輩で現千葉ロッテの酒居知史を彷彿させる。

「人づてで酒居さんがフォームで意識しているポイントと自分が意識しているポイントが一緒だって話を聞いたので参考にさせていただきました。You Tubeとか動画サイトを見ながら力感とか自分なりに研究しています」

温水と酒居の共通点はピッチングフォームがいわゆる二段モーションであることだ。両者の投球フォームを見比べると確かに二人はよく似ている。

さらに温水が注視している部分を掘り下げると、左足を上げてから踏み込むまでの間の部分、体の使い方を特に参考にしているという。

この件について酒居にも話を振ってみると彼からはこんな答えが返って来た。

「内もも(内転筋)を使えているか、そこで粘れているかですかね」

投手の場合、しっかり内転筋を使うことで高めにボールが抜けることが減り、低めに伸びのある強いボールを投げることが出来ると言われている。

酒居の好調時を見ていると、両サイド低めのボールゾーンからまるで浮き上がって来るかのようなボールをよく投げているのだが、これは今季の温水を見ても同様で、ストレートこそ最速が140キロ後半と派手さはないが、両サイドの低めに強い球をしっかり投げ分けている点は酒居の好調時と被る。これも今季、彼が頭角を現したひとつの要因とも言える。

さらにこのストレートを活かすように鋭い変化球をストレートと同じ軌道から縦に落とすことも出来ている。

今年4月のJABA岡山大会準決勝のニチダイ戦でも10個の三振を奪って4安打完封勝利。7月に東京ドームで行われた都市対抗野球でも4試合20回1/3を投げて21個の三振を奪うなど奪三振率は高い。

制球も内転筋を使った良い投球フォームで投げられているせいか安定しており、試合で大崩れすることも少ない。ドラフトに向けて名前が上がって来なかったのが不思議なくらいである。

それでも本人は「三振を狙うタイプではない」と俯瞰的に自分を捉えている。

「力んだところで150キロ出せるピッチャーじゃないですし、いつもどおり打たせて取るピッチングを意識して試合に向かっています」

マウンドでは常に平常心。自身の投球スタイルを見失うことはない。

「派手さはないけど勝てるピッチャー」と、巷で彼が評されるのはそのようなスタイルが確立されているからともいえるだろう。

大一番でも崩れぬ抜群の制球力

当然、大阪ガス・橋口博一監督の信頼も厚い。

6月2日の都市対抗野球近畿二次予選第二代表決定戦ではパナソニックを相手に5安打無四球で完封勝利。自軍を本大会出場に導くと、7月の本大会、三菱重工神戸・高砂との決勝戦でも先発を任されて、8回途中(7回1/3)まで無失点に抑える好投を見せて、三菱重工神戸・高砂のエース・守安玲緒との息詰まる投手戦を制した。

「疲れもあったんですけど気持ちで投げてやろうと思って精一杯投げました」

相手の懐を大胆につける気持ちの強さも抜群の制球力があればこそだ。こうした大一番で結果を残せるのも、ある意味プロ向きと言えるし、しっかり計算が出来るピッチャーとしてプロ12球団に彼を推したい。

とはいえ現時点で彼がプロ球団から指名を受ける確率は五分五分と言ったところだろう。

今年は高卒・大卒選手に好素材が多く、各球団の目はそちらに向かっている。

あとは今季下位に沈んだ球団を中心に、どこまで彼が即戦力として評価されるかにもよるだろう。

11月1日からは社会人野球の秋の頂点を決める日本選手権が京セラドーム大阪で幕を開ける。

過去の大会を振り返ると都市対抗野球の覇者が日本選手権を制したのは1988年の東芝、2012年のJX‐ENEOS、2015年の日本生命と3チームのみとなるが、今年は大阪ガスがお膝元とも言える京セラドーム大阪でその快挙に挑む。

チームの主戦投手である温水にかかる期待も大きい。

今大会でも彼が都市対抗野球同様の好投を続ければ評価はさらに上がるはずだ。今年のドラフトの結果に限らず改めて彼を注目して見ていきたい。