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【スポーツ×お金】第3回 お金とデータだけではできないマネジメント②

2018 2/23 18:00藤本倫史
野球,金,バット
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データだけに偏るマネジメントの危うさ

 前回は、最新のデータ分析と長い時間を経て蓄積されたノウハウ双方の両立が重要であることを述べた。もし、データだけに偏った運営を行うとどうなるのか。その事例の一つとして、2015年に発覚した球団データベースのハッキング事件がある。

 この事件は、前述したジェフ・ルノーGM率いるアストロズのデータベースに侵入したセントルイス・カージナルスの元職員が何度も不正アクセスを行い、トレードや統計データなどを不正入手していたというものだ。ルノーはアストロズの前にカージナルスで働いており、そこからの情報流出であった。個人的な恨みもしくは組織的な関与にしても、カージナルスは罰金200万ドルとドラフト上位権のパス、そして犯人は46か月の懲役刑を科せられ、厳しい処分が下った。

 これは裏を返せば、ルノーのデータが素晴らしいとも言えるが、まさに情報を奪い合う戦争になっている。

 また、昨年にはボストン・レッドソックスが腕時計端末を使用し、サインを盗んでベンチに伝えていたという事件も起こっており、データや最新テクノロジーのルール、そして倫理観も考えなければならない時代になっている。

 その倫理観で言えば、昨年、アトランタ・ブレーブスのGMだったジョン・コッポレラ氏がある事件で球界から永久資格停止の重い処分を受けている。コッポレラの年齢は38歳で、若く優秀な人材だった。ノートルダム大学卒で、大手企業インテルの内定を断り、ニューヨーク・ヤンキースにインターンとして入社。非常に仕事熱心で、30代で夢としていた編成責任者まで上り詰めた。

 しかし、その情熱が悪い方向に出る。中米の有望株を早くから囲い込み、いくつも違反を犯して契約を結んでいた。ドミニカやベネズエラの選手獲得競争は激しく、情報が手に入りやすくなった昨今では過剰な争いになっている。

 どのビジネスもそうだが、ルールを犯してはいけない。しかもスポーツをビジネスにしているにも関わらず、真のスポーツマンシップをわかっていないのは残念だとしか言いようがない。

あなたは年俸15億円の選手を解雇できるか?

 このメジャーリーグの事例だけでなく、他の北米4大スポーツやヨーロッパサッカーでもこのような不正や問題が起きており、スポーツビジネスのあり方が問われている。

 これらはスポーツビジネスがお金を「稼ぐ」ことのできる産業だと認知されてきている証拠かもしれない。ただ、マネジメントは「結果」ではなく、「成果」を定義しなければならない。不正などをして、ある一地点で、優勝したり、収益をあげたりと「結果」を残すことができるかもしれない。しかし、短期、中期、長期の目標とプロセスを含めた面でみる「成果」でなければ、継続的に球団を成功に導くことはできない。

 このことをよく理解しているのはデータ型の代表であるシカゴ・カブスのセオ・エプスタイン球団副社長だ。昨年の6月に、ある試合で7盗塁を許して敗戦した。そこで、盗塁を許した捕手のミゲル・モンテロは、メディアから責任を問われた。しかし、モンテロは自分の非を認めず、先発投手であるジェイク・アリエタをメディアの前で批判した。

 エプスタインはその行動を見て、翌朝にモンテロを解雇した。モンテロはオールスターに2度出場したスター捕手であり、その年の年俸は約15億円である。普通に考えれば注意だけにとどめ、チームに残留させた方が得だと考える。

 しかし、エプスタインは短期的なお金ではなく、長期的な球団やチームへの影響を考えた。結果、チームは前半戦に調子が出なかったが、前年度のワールドシリーズチャンピオンの力を見せ、地区優勝に輝いている。

お金を使う意義

 また、エプスタインはカブスの編成責任者になってから、トレードなどを行う際にデータだけでなく、チームメイトの評判などもリサーチし、その上で選手を獲得する傾向が強くなっていると聞く。

 それはチームケミストリーというチームのパフォーマンスを向上させる概念を理解し、何より球団やチームのマネジメントについて考えている証拠だろう。お金やデータだけでなく、球団の成果を考えているからこそ、86年ぶりにレッドソックス、108年ぶりにカブスのワールドシリーズチャンピオンに導いたリーダーになれたのではないか。

 ここまで、「スポーツ×お金」というテーマで、このコラムを書いてきた。お金という部分はどのビジネスでも、非常に重要な部分を占める。特に「人(選手)」に大きなお金を使うプロスポーツは特殊である。だからこそ、お金をどこにどう使うかの意義や意味を深く考えなければならない。

 今回のシリーズでは、この「人」の評価を決め、チームを編成するGMに焦点を当て、見てきた。次のシリーズからは、この華やかでもあり厳しくもあるマネージャーの話を軸に、競技と経営を考えながら試合(ゲーム)を商品化していく過程、そしてビジネス面でのリーダーシップを見ていきたい。

 次回は、新シリーズに入る前に「スポーツ×お金」に関して、改めて検証を行うために、日本のスポーツファイナンスを研究している広島経済大学永田靖教授にお話を伺う。


《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 助教。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。