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サニブラウン日本選手2人目の9秒台①米国留学で変化した走り

2019 5/14 07:00鰐淵恭市
日本選手2人目の9秒台をマークしたサニブラウンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

米国で9秒99、東京五輪の参加標準記録を突破

その「吉報」が届いたのは、横浜で開催されていた世界リレーで、メダルを期待されていた男子400メートルリレーの日本代表が予選で失格したという「悲報」から、約12時間後のことだった。

米国フロリダ大へ留学中のサニブラウン・ハキームが5月11日、米国アーカンソー州で行われた大会の男子100メートルで、桐生祥秀(日本生命)に次ぐ日本選手2人目の9秒台となる9秒99をマークして優勝した。追い風1・8メートルの好条件とはいえ、自己記録を一気に0秒06も縮める走りだった。この種目では日本選手として初めて東京五輪の参加標準記録(10秒05)を突破し、自身初の五輪出場に向けて大きく前進した。

そして、世界リレーで苦杯をなめた日本の男子400メートルリレーにとっては、東京五輪での悲願の金メダル獲得に向けて大きな戦力を得たことになる。

スタートダッシュに変化

9秒99をマークした映像をYoutubeで見た。フロリダ大で学んでいるせいか、スタートが外国選手のようなスタイルに変わったような気がする。

日本の選手のスタートは、体を低く前傾させる。そして、それが良いとされる。足は「蹴る」というより、どちらかというと「置く」感覚に近いかもしれない。そのため、スタートはパワフルなものというより、「スタスタ」と進むような感じを覚える。

だが、今回のサニブラウンは違った。体は無理に前傾せず、早めに起き上がっていた。足の運びにも一歩一歩にパワーがあり、「ガツガツ」と進む感じだった。どちらかというと、外国選手に多いスタートだ。

その後の走りは、188センチの長身をいかしたサニブラウンらしさがつまっていた。その武器は大きなストライド。日本陸連の強化担当者が「背中の辺りから足が動いているような感じがする」と語るほど足の可動域が広く見える。これは背筋が強く、骨盤が前傾した黒人選手に多い走りだ。その持ち前のストライドで中盤からぐんと加速して一気に抜け出すと、トップを譲ることなくゴールを駆け抜けた。

ゴール後のサニブラウンは、最初は悔しそうな表情を見せた。これは、速報タイムが「10秒00」と、わずかに9秒台に届かなかったからではないだろうか。だが、「9秒99」という正式タイムが出ると、白い歯をこぼし、ほかの選手と抱き合って喜んだ。

元々は100mより200mが得意

日本にいるとき、サニブラウンはスタートを得手としていなかった。そのため、100メートルより、200メートルが得意だったと言える。

だが、今年は室内で60メートルの日本タイ記録となる6秒54をマーク。スタートが苦手なはずのサニブラウンが60メートルで好記録を出したことから、100メートルでの9秒台突入を期待する声はあった。そして、この20歳はその期待にあっさりと応えてみせた。

だが、当の本人は10秒の壁を突破した走りについて、テレビのインタビューでは特に驚きの表情を浮かべていなかった。

「そんなに速く走った感じはしなかった。いつも通りフィニッシュした」

今後についても、「やるべきことを一歩一歩やる」とあっさりとしたものだった。そういった淡々としたところがサニブラウンらしいと言えば、らしい気もする。

成長痛に苦しんだ中学時代

サニブラウンという選手は、どういったスプリンターなのだろうか。

出身は福岡県で、東京で育った。父親はガーナ人で、母親は日本人。子どものころはサッカーをやっていて、インターハイ出場経験もある母親の影響で小学校3年生から陸上を始めた。ただ、本人はサッカーで走力をあげるために始めたのだという。

中学から陸上に専念。2000年シドニー五輪男子400メートル代表の山村貴彦氏が指導する中高一貫校に進んだ。だが、その能力がありながら、中学に入った当初は平凡な記録に終わった。その理由は成長痛。身長が急激に伸びる時に起こるこの痛みのために、思ったような練習が積めなかった。ようやく練習ができるようになったのは、成長痛が治まった中学2年生の秋ごろから。そして、そこから駆け上がるように記録を伸ばしていくことになる。


《続編》サニブラウン日本選手2人目の9秒台②東京五輪リレーはアンカー?