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代表選考会で勝っても東京五輪に出られない?ちょっと困ったマラソン選考事情③

2019 5/1 07:00鰐淵恭市
マラソンランナー,ⒸShutterstock.com
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五輪への調整に影響も

この件について、日本陸連は明確な答えを出していない。が、五輪資格がないのだから、国内選考で選ばれても東京五輪に出場できないはずだ。そうなった選手が五輪に出場するにはどうしたらいいのか、二つの方法が予想される。

一つ目は最もシンプルな方法で、MGCの後にどこかのレースを走り、参加標準記録を突破すること。二つ目は、ワールドランキングによる五輪参加資格獲得である。

五輪参加資格に関わるワールドランキングは2019年1月1日以降の大会が対象となり、2020年6月3日付のランキングで五輪参加資格が得られるかどうか決まる。このランキングは、有効期間内に走ったレース中、ポイントが高い2レースのポイントの合算で決まる。この2レースはフルマラソンである必要はなく、一つがハーフマラソンであっても良い。

国際陸連は、東京五輪に出場するマラソン選手の人数を男女あわせて80人と想定している。そのうち、40人が参加標準記録突破者、40人がランキングによって選ばれると予想。ケニアやエチオピアなど長距離王国からは、かなりの数の選手が突破すると考えられるが、各国代表選手は男女とも最大3人ずつなので、このような計算になる。

ランキング方式では参加標準記録突破者らを除いたランキングを元に、上位40人ほどに五輪参加資格が与えられる予定。しかし、このランキングによる五輪参加資格獲得は、記録のような明確なラインが見えにくいのが難点。

MGCのタイムがあまりにも遅ければ、もう1回フルマラソンを走らなければならないだろうし、有効期間内にハーフマラソンを含め2レース以上走っていない場合も、再びレースを走る必要があるだろう。つまり、MGC終了時点で参加標準記録を突破していなければ、どこかでもう1レース走る可能性があるということだ。

参加標準記録方式での資格獲得を目指す場合は、確実にフルマラソンをもう1回走る必要があり、ランキング方式を目指す場合も必要に応じて再レースが必要になってくる。

早めに策定したことがあだに

ここで問題になるのは、東京五輪に向けた調整である。五輪選考会が1年も前に行われる「利点」は、早い時期に代表が決まれば、五輪本番まで時間をかけてしっかりと選手の調整ができるという点だ。

ところが、参加標準記録を突破しない選手が国内基準をクリアした場合、そうはいかないだろう。五輪参加資格獲得のためレースに出る必要がある場合、1年かけてじっくり調整する時間はなくなり、五輪選考会を1年前に持ってきて万全を期したのにも関わらず、その意味が薄れてしまう。

この原因は、国際陸連が作った国際基準より先に国内の五輪代表選考基準を作ってしまったことにある。しかし、これまでの選考基準の曖昧さを排除するためや、できるだけ早く代表を決めるためには、選考概要を早く発表する必要があった。そのため、一概に日本陸連を責めることはできない。怒らく、参加標準記録方式が残り、標準記録が大幅に引き上げられたことは誤算だったのだろう。

当初はランキング方式だけで五輪資格が決まると言われていた。もちろん、ランキング方式だと6月まで参加資格が得られるかどうかは分からないが、日本選手なら問題ないだろうという見立てからだ。今回のランキング方式でも、2レースこなせている日本選手なら十分に上位40人に入ると思われる。

代表の内定の内定か

内輪ネタだが、「五輪参加資格を持っていない選手がMGCで優勝したら何と言ったらいいのか」という問題が報道陣内で起きている。

通常、五輪選考会で国内基準を満たすと「五輪代表に内定」と報道される。なぜ、「決定」ではなく「内定」なのか不思議に思うかもしれないが、正式な五輪代表になるには日本オリンピック委員会の承認を得なければならない。その承認は後日のため、それ以前は「内定」と報道されるのだ。

では、MGCで五輪参加資格がない選手が優勝した場合はどう言えばいいのだろう。「『五輪代表の内定の内定』になるのか」などという意見もある。実際にどう報道されるかは分からないが、わかりやすさを狙った今回のMGCが、意外なところでわかりにくくなっている。