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川内優輝、“100戦練磨のプロランナー”へあと8戦 プロ初戦は15日のボストンマラソン

2019 4/14 07:00田村崇仁
川内優輝,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

3月いっぱいで埼玉県庁を退職

陸上男子マラソンの川内優輝(32)が3月末に埼玉県庁を退職し、4月からプロランナーに転向した。これまで「最強の公務員ランナー」と呼ばれ、国内外のレースに毎週のように参戦する独自スタイルで通算92度のマラソンを走破。今年中に残り8戦に迫るフルマラソン通算100戦出場を達成する見込みだ。

節目のレースは大々的に祝う計画で「100回走って百戦錬磨のプロランナーと呼ばれたい。新しい元号になってみんながわくわくした気持ちになっているところで、自分も市民ランナーのスタイルをぶち破る。プロランナーとして大きな変化ができるよう頑張ります」と新たな決意を表明した。

プロ初戦は伝統のボストン

マラソンブームが国内外で広がる中、昨年3月には「2時間20分以内における最多完走数」として当時の78回がギネス世界記録と認定された。

「令和」の新時代に合わせ、心機一転であいおいニッセイ同和損害保険と所属契約を結び、スポーツ用品大手のアシックスジャパン、イヤホンブランド「Jaybird」とも契約を締結。「自分にしかできない『オンリーワン』のプロランナーになりたい」。

昨年の伝統大会で瀬古利彦氏以来31年ぶりに日本勢優勝の快挙を達成し、前回チャンピオンとして臨む15日のボストン・マラソンがプロ初戦となる。

ドーハ世界陸上で大台到達も

今月3日、東京都内で行われた所属契約の記者会見では5月に婚姻届を出す元実業団選手の水口侑子さんがサプライズで登場した。新たな門出に公の場で初の2ショットが実現。フィアンセから「誰からも愛されるランナーになってください」と激励の言葉を受けると、照れ笑いを浮かべて「2人で日本中、世界中を回れたらいい」と二人三脚で再出発を約束した。

今後は2連覇を目指すボストンを皮切りに、フルマラソンはバンクーバー(5月5日)、ゴールドコースト(7月7日)、釧路湿原(同28日)、ニューカレドニア国際(8月25日)、日本最北端わっかない平和(9月1日)などに出場する予定だ。日本代表選出が確実視される今秋の世界選手権(ドーハ)で、メモリアルの通算100回を迎える可能性もある。

川内出場予定表,ⒸSPAIA

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自身の持つ2時間20分を切った回数のギネス記録も塗り替える覚悟だ。認定記録の78回は「半端な数」と表現。こちらも100回の大台を目指し「名実ともに百戦錬磨の活躍」を思い描く。

転機は世界選手権の残り3秒

「生涯現役」を目標に掲げる川内が一躍時の人になったのは2011年。普段は夜9時まで埼玉・春日部高の定時制で働く事務職員が2月の東京マラソンで日本勢3年ぶりの2時間8分台で実業団選手を抑えて3位に入り、低迷する男子マラソン界に衝撃を与えた。

同年の世界選手権(大邱=韓国)に初出場し、団体で日本の銀メダルに貢献。「実業団には絶対負けたくない」とユニークな個性で反骨心を隠さず、地道なレースを重ねて17年に3度目の世界選手権(ロンドン)に出場したが、この大会がプロ転向の転機になった。

「完全燃焼」で魂の猛追を見せ、世界選手権で自己最高の9位。最低限の目標だった8位入賞までわずか3秒足りなかった。「あの3秒、あの悔しさがプロ転向の理由」と振り返り、公務員ランナーとしての限界を痛感したレースでもあった。

プロとして目標は2時間7分台

座右の銘は「現状打破」―。「市民ランナーの星」としてサインを求められると、この言葉を添えてきたが「自分自身がいつしか公務員という職業で〝現状維持〟に満足してしまっていた」と苦笑いする。「自分がもっと強くなる方法、もっと速くなる方法が頭の中で十分に思い描けているのに、それを実行に移さなかった。自己記録も5年ほど更新できていない」と自戒を込めて力説する。

プロ転向のメリットとして、これまで2時間ほどだった平日の練習時間や体を整えるメンテナンスの時間が増え、苦手な暑さを避けるために涼しい環境で長期合宿ができることなどを挙げる。その上で、自己ベストを更新して2時間7分台のタイムを出すこと、2021年世界選手権(米オレゴン州ユージン)でメダルを獲得することをプロとしての目標に掲げた。

全国行脚の使命も

今後はプロとして所属先とともに競技普及や地域活性化を目指す「マラソンキャラバン」と題した全国行脚も展開する計画だ。大会に参戦し、講演会やランニング教室を行う計画を練る。

「日本全国で応援してくれるファンの方に生身の走りを見せることが、オンリーワンのプロランナーとしてやっていきたいことだった。公務員時代から地方創生、地域貢献の理念は一番共感できるところであり、それこそ私のプロランナーとしての夢の実現になる」と使命感は強い。「これからどんなことができるのか可能性にわくわくしている」と目を輝かせた。

五輪より世界選手権

9月に開催される東京五輪マラソン代表選考会「グランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権を獲得している。だが「暑さが苦手」と公言し、あくまで今秋にドーハで行われる世界選手権に照準を合わせる。

「ロンドンの時の3秒を、プロランナーとしてドーハでリベンジしたい」

国内では和歌山や三重などでレース出場がなく、海外では南米がいまだ未踏。異色のランナーとして47都道府県制覇、世界全大陸制覇など夢は広がる。

「走ることは人生そのもの」と言い切り「合宿で引きこもって、大きなレースにフォーカスするのもプロの一つの形だけど、それは私のやりたいものとは違う。新たな環境でマラソンに打ち込めるのは楽しみで頭がいっぱい。今まで通り、いろんなレースに出て、地域の人に喜んでもらえるような本物の走りを見せていきたい」と意気込む。

次はどんな道を切り開くのか。唯一無二、オンリーワンのランナーへ号砲が鳴った。

川内全成績表,ⒸSPAIA

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川内 優輝(かわうち・ゆうき)埼玉・春日部東高から学習院大へ進み、箱根駅伝に関東学連選抜で2度出場。マラソンでは11年東京で初めて2時間10分を切る2時間8分37秒で3位に入り、13年ソウル国際で自己最高の2時間8分14秒で4位。14年仁川アジア大会で銅メダルに輝いた。世界選手権は3度出場し、17年の9位が最高。昨年3月には2時間20分を切った回数として当時の78回がギネス世界記録に認定された。昨年4月のボストン・マラソンで日本勢31年ぶりの優勝。175センチ、62キロ。32歳。東京都出身。