「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

福島県、実は長距離王国なんです ~名ランナーの系譜②~

2019 2/3 15:00鰐淵恭市
今井正人,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

目立つ学生駅伝での活躍

1月20日の都道府県対抗男子駅伝で初優勝した福島県は、数々の名ランナーを生み出してきた「長距離王国」として知られる。最近は「山の神」が立て続けに生まれるなど、学生駅伝での活躍が目立つ。

福島県、実は長距離王国なんです ~名ランナーの系譜①~

初代山の神、今井正人

昨今の箱根駅伝人気を語る上で、「山の神」の存在は外せない。山上りの5区で驚異的な走りを見せ、チームを優勝に導くランナーのことを「山の神」と呼ぶようになったが、その初代である今井正人も福島県出身だ。

原町高校を卒業し、順天堂大学に進む。大学2年生の時から箱根の山上りの区間である5区を走ることになるが、ここで一躍スポットライトを浴びることになる。

2年生の時は5区で史上最多となる11人抜きをみせ、区間新記録も更新。区間距離が変更された3年生の時の5区でも、区間記録をマークして5人を抜き、往路優勝に貢献した。4年生の時は5位でたすきを受けると4人を抜いて区間記録を更新し、チームを2年連続の往路優勝、6年ぶりの総合優勝に導いた。

大学卒業後はトヨタ自動車九州に進み、1992年バルセロナ五輪男子マラソン銀メダリストの森下広一監督の指導を受けている。社会人になってからは「マラソンの今井と呼ばれるようになりたい」と語り、主戦場をマラソンに移したが、なかなか周囲が期待するような結果を出せなかった。山上りは特殊能力であり、平坦な道を走るのとは別の能力であるが、周囲は箱根の山上りの走りをイメージして、普通のレースでも速いものだと思ってしまう。今井自身は自分の力が分かっていても、周囲の期待とのギャップに苦しんだ時期もあった。

今井が2時間10分を切る、いわゆる「サブテン」をマークしたのはマラソン8回目、2014年の別府大分毎日マラソンだった。翌年の東京マラソンでは当時の日本歴代6位となる2時間7分39秒をマークし、同年の北京世界選手権の代表に選ばれたが、体調不良で本番を走ることはできなかった。

今井は五輪、世界選手権で、日の丸を背負って走ることはできていない。箱根駅伝の活躍を知るファンからすれば寂しい結果だ。今年で35歳。来年の東京五輪に最後のチャンスをかけることになるだろう。

2代目山の神、柏原竜二

今井の活躍で「山の神」という言葉が有名になったが、その名を引き継いだ2代目も福島県生まれだ。

2代目山の神と呼ばれた柏原竜二はいわき総合高校出身。高校時代は貧血に苦しみ、インターハイや国体に出場できなかったが、東洋大に進んで、その才能が開花した。

4年連続で山上りの5区を走り、その全てで区間賞を獲得、区間記録を3度更新した。1年生の時は9位でたすきを受けて、トップへと浮上。福島県の先輩である今井が持っていた区間記録を47秒も更新し、東洋大の初の総合優勝に貢献した。2年生の時は6人をごぼう抜き。区間記録も再び更新し、東洋大も2年連続の総合優勝となった。3年次は春先に右膝を痛めた影響で区間記録の更新はならなかったが、2人を抜いて往路優勝を果たした。最終学年の時は初めて首位でたすきを受けると、そのまま快走。2年ぶりに区間記録を更新し、東洋大を2年ぶりの総合優勝に導いた。

柏原は山上りという特殊能力だけでなく、世界ジュニアの1万メートルで7位、ユニバーシアードの1万メートルで8位になるなど、平地を走っても速かった。それだけに初代山の神の今井以上に将来を嘱望された。

だが、大学卒業後に進んだ実業団の富士通では芽が出なかった。マラソンで勝負したが、自己最高記録は初マラソンの時の2時間20分45秒に終わった。そして、足の故障もあり27歳で引退。現在は社業に専念している。

学生駅伝界の名指導者も

学生駅伝界で名を知られる指導者にも福島県出身がいる。駒沢大の大八木弘明監督と、東洋大の酒井俊幸監督だ。

大八木監督は会津工業出身。高校卒業後は実業団に進んだが、箱根駅伝に憧れて24歳の時に駒沢大に入学。昼間は川崎市役所で働く苦学生だった。大学卒業後は再び実業団に進み、1995年から駒沢大のコーチになり、2004年から監督に就任した。

そのいかつい風貌と大声で選手を鼓舞する姿は学生駅伝の風物詩。大八木監督がコーチに就任してから現在まで駒沢大は箱根で6度の総合優勝、全日本で12度優勝するなど、その手腕で母校を常勝軍団へと導いた。

東洋大を率いる酒井監督は学法石川高校出身。東洋大時代はあまり大きな活躍はできなかったが、実業団のコニカミノルタに進み、実業団駅伝で活躍。2009年に32歳の若さで東洋大の監督に就任した。酒井監督はイケメンぶりが有名だが、その指導力で東洋大を箱根駅伝で3度の総合優勝に導くなど、学生駅伝で優勝争いの常連校へと引き上げた。

そして現在へ

現在の若手にも、福島県出身の逸材はいる。

1月の都道府県対抗男子駅伝でアンカーとして福島を優勝に導いた相沢晃(東洋大3年)がその筆頭格だろう。円谷幸吉と同じく福島県須賀川市出身。学法石川高校から東洋大に進み、全日本大学駅伝では2度区間賞を獲得。今年の箱根駅伝4区では区間新記録をマークした。

学法石川高校では相沢と同学年で、明治大で活躍する阿部弘輝も福島の系譜を受け継ぐ1人。箱根での成績はいま一つだったが、都道府県対抗男子駅伝では優勝メンバーとして活躍した。

実業団の住友電工で活躍する遠藤日向は、学法石川高校で相沢、阿部の一学年後輩。東京五輪出場をにらみ、大学には進学せずに実業団に進んだ。1年目から全日本実業団駅伝で区間賞を獲得するなど、その力を発揮している。

福島県が生み出す名ランナーの系譜は今も続く。