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第30回出雲駅伝③ 青学、絶対的エース不在も完勝。今季も大学駅伝の中心に

2018 10/18 11:00鰐淵恭市
ランナー,ⒸShutterstock
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東洋大の巻き返しが始まった5区

5区は6.4キロと短く、つなぎの区間である。ここでも、青山学院大の原晋監督は先を見据えた、余裕の選手起用を見せた。

この区間を任されたのは生方敦也(3年、栃木・佐野日大高)。学生駅伝デビュー戦だった。ただ、スピードは十分にある。今年の関東インカレ2部の1500メートルで優勝しているランナーだ。 原監督は生方の起用を「出雲スペシャル」と言った。確かに、1500メートルという中距離ランナーが駅伝を走るとすれば、学生3大駅伝でも最も短い出雲駅伝がベストだろう。その意味では、出雲専用と言える。

さらに言えば、中距離の選手が長い距離を走ることができれば、青山学院大の戦力がさらにアップすることになる。1区間20キロを走る箱根用にスタミナがある選手はたくさんいるが、スピード豊かな選手はそうは多くない。その中で、生方という存在は貴重だ。そんなスピードランナーの成長を促すための、原監督の起用かもしれない。

追う東洋大は今西駿介(3年、宮崎・小林高)、東海大は郡司陽大(3年、栃木・那須拓陽高)。5000メートルの自己ベストで見ると、郡司が最も速いものの、タイム的には3人の大きな差はない。ここで青山学院大が差を広げるようなら、2年ぶりの優勝に大きく前進。逆にライバルが逆転で栄冠を手に入れるためには、ここでどれだけつめられるかにある。

アンカーにつなげるこの5区で快走したのは、「この1年は三冠を目標にやってきた」という東洋大の今西だった。

  この区間を18分30秒でカバーし、区間賞を獲得。学生駅伝デビューとなった青山学院大・生方は終盤に疲れたものの、18分48秒で区間2位となり、最低限の走りは見せた。これで1位青山学院大と2位東洋大の差は27秒。楽な差ではないが、逆転も不可能ではない差になった。一方、東海大は3位に順位を上げたものの、差はさらに広がり1分23秒となった。

猛烈な追い上げと冷静な走り、先にゴールテープを切ったのは

最終区間は10.2キロと、出雲最長の区間となる。それ故、タイム差が出やすい区間である。

逃げ切りを図る青山学院大は竹石尚人(3年、大分・鶴崎工高)。スピードというより、スタミナがあるタイプで、昨年の全日本は6区で区間4位、今年の箱根は山下りの6区で区間5位の選手である。

逆転優勝を狙う東洋大は吉川洋次(2年、栃木・那須拓陽高)。昨季は1年生ながら学生3大駅伝全てに起用され、出雲4区区間4位、全日本区間4位、箱根4区区間と安定した力を残した選手である。

竹石と吉川の1万メートルの自己ベストで速いのは吉川の28分53秒51で、竹石より約30秒も速い。たすきを受けたときの2人の差は27秒。トラックの力がそのまま出るようだと、東洋大の逆転優勝も十分にある。

竹石は先行するチームらしく、特に気負った様子はなくスタートした。あくまで自分のペースを貫く感じ。もしくは少し余裕を持って、ゆっくりしたスタートでもあった。

かたや東洋大の吉川はスタートから激しく追い上げた。小気味の良い走りで、圧倒いう間に差をつめた。1.7キロ付近で竹石との差は8秒。距離にして約50メートル。2キロの地点ではさらに差を縮め、4秒差となった。相手に足音が聞こえるところまで差を縮めた。

ただ、これ以上2人の差が縮まることはなかった。最初の2キロで20秒以上も差を縮めた吉川は、明らかにオーバーペースだった。中盤以降、走りにキレがなくなり、竹石にじわじわと差を広げられた。ただ、吉川の走りはある意味仕方のない部分もある。視線の先に追いかけるチームの背中が見えれば、本能的にスピードが上がる。吉川はその本能に素直に従っただけだ。

竹石はそんなことを知っていたのか、吉川が近くに迫ってからも焦らなかった。自分の走りを貫き、相手がばてるのを待った。表情をほとんど変えない、冷静な走り。それが、吉川にダメージを与えた。

だが、竹石の心はそんなにクールでなかったらしい。前の5区で同学年の生方がしっかりとトップを守って、たすきを持ってきたからだ。「生方のスタートを見たら、感じるものがあった。これでいかれるようだとエースなれない。気持ちで頑張った」。トップでゴールを切るとき、右手の人さし指を突き出した。

青山学院大が2時間11分58秒で2年ぶり4度目の優勝。2位東洋大は12秒差、3位東海大は1分33秒差だった。

懐の深さを見せた青山学院大

今年は絶対的なエースが居ない青山学院大だが、蓋を開ければ1区途中から一度もトップを譲らない「完全優勝」だった。前半で飛び出し、逃げ切るという駅伝の定石をこともなげにやってのけた。一方、東洋大、東海大は前半に出遅れたのが響いた。

今回は青山学院大の懐の深さを感じるレースでもあった。つなぎの区間で、将来のエース候補の吉田圭太(2年、広島・世羅高)、スピードのある生方を起用する余裕をみせた。さらに言えば、これだけの選手をつなぎの区間で使えるのは、その厚い選手層があるからできること。そして、選手が気負わずに指揮官の期待に応えて、確かな戦力へと成長した。青山学院大にはこういった好循環がある。

今季の大学駅伝は幕を開けたばかりだが、その中心にいるのは今年も青山学院大である。