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2016年全日本大学駅伝〈2〉「青学はやはり“エビフライ”だった」

2016 11/14 16:16きょういち
駅伝
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大学生は突然化ける

 前半の4区までを終えてトップに立ったのは、大会前には優勝候補に名前があまり挙がらなかった名門の早稲田大学だった。


 5区(11・6キロ)にたすきを渡した時は2位に青山学院大学に1分7秒差。一気に、この大会の主役に躍り出た。
 立役者は4区を走った永山博基だった。鹿児島実業高校出身の2年生は、1万メートルの自己ベストが29分台。決して速くはない。でも、若いときの成長は計り知れない。この大会で永山は化けた。区間賞の走りで後続を一気に引き離した。青山学院大学の主将・安藤悠哉がトップに立つであろうという予想を、あっさりと裏切った。

化けるのは青学だって同じ

 1分少々の差。これ以上開かれると、アンカーに控える青山学院大学のエース一色恭志と言えども、逆転は厳しくなる。優勝候補の大本命が劣勢にまわったことで、レースは俄然盛り上がった。


 ここで青山学院大学を救ったのは、「弱い世代」と揶揄されてきた2年生2人だった。


 まず5区で小野田勇次が区間賞の走りで差を5秒縮めた。続く6区(12・3キロ)でも森田歩希が区間賞の走りで、差を25秒縮めた。「前は見えなかったけど、焦らず自分の走りを心がけた」と森田。この時点でトップ早稲田大学との差は37秒。逆転優勝が視界に入ってきた。そして、森田はこの走りで、この大会の最優秀選手に選ばれることになる。

昨年の誓いを果たす激走

 青山学院大学は7区(11・9キロ)の中村祐紀がつっこみすぎて、終盤に失速。それでも、早稲田大学との差を49秒でとどめ、アンカーの一色にたすきをつないだ。最終8区は最長の19・7キロ。早稲田のアンカーは、1万メートル29分台の安井雄一。28分30秒を切る一色との力の差は歴然だった。あとは、いつ一色が安井をとらえるか、だった。


 そして、その瞬間はあっさりと訪れた。


 6キロ過ぎ、一色が安井をとらえると、並ぶことなく、一気に抜き去った。
 昨年のこの大会、青山学院大学はアンカーの「山の神」神野大地が及ばず、2位に終わった。その帰りの電車の中で、一色は原監督に翌年のアンカーを志願したという。


 「何が何でも追いついてやる」


 そんな思いで、一色は前だけを見て走り続けた。早稲田大学を抜き去った後も、ひたすら前を見て走り続けた。15キロ付近では両足がけいれんする感覚に襲われ、「完走できない」とも思った。それでも、アンカーを志願した強い心は折れなかった。トップでゴールテープを切ると、一色はへたり込んだ。激走の証しだった。


 青山学院大学は全日本出場6回目にして、初優勝をつかんだ。

最後はカリッと

 優勝した青山学院大学はもちろんだが、今大会の陰の主役は2位に入った早稲田大学だ。8人中7人が区間3位以内の走りで、最終8区の途中までトップを走った。ただ、昨年からチームを指揮する相楽豊監督は「全員駅伝はできたけど、区間賞を取る選手が1、2人いないと大砲のいる青学には勝てない」と手厳しかった。


 青山学院大学と並んで3強に挙げられた東洋大学と駒沢大学は苦しいレースだった。


 昨年優勝の東洋大学は1区でトップに立ったものの、2区のブレーキが響いて6位に。最多優勝回数を誇る駒沢大学は4位に入ったが、優勝争いには全く絡めなかった。
 ダークホースだった山梨学院大学は、アンカーのドミニク・ニャイロにトップが狙える位置で渡せず、3位だった。ただ、3年前に全国高校駅伝で優勝した付属高校のメンバーが力をつけており、上田誠仁監督「小さな芽は出てきた」と手応えをつかんだ様子。勝負は来年だろう。
 力のある1年生が多数入学し、出雲で3位に入った東海大学は、1年生4人を起用したが、7位に終わった。1区の鬼塚翔太が10位に終わったように、1年生が長い距離に対応できていなかった。ただ、3年後には面白いチームができそうだ。


 さて、青山学院大学に話を戻そう。初優勝をたぐり寄せるきっかけとなった5、6区。ここは、いわゆるつなぎの区間だ。各校とも力のある選手を配置できない。ところが、青山学院大学はしっかりと走れる選手がまだいたのだ。2度のブレーキを挽回するだけの選手層の厚さ。それを見せつけるレース展開となった。「どこを切ってもおいしい」から名付けられた「エビフライ大作戦」。少々まずいところもあったけれど、全体として見ればやっぱりおいしくできあがった。ちなみに、原監督は最後までキャッチーなコメントで締めくくった。


 「途中よく揚がっていないところがありましたが、最後はカリッとね」


 これで大学駅伝2冠。最後にある正月の箱根駅伝は最も選手層の厚さが問われる大会だ。史上4校目の3冠が現実味を帯びてきた。

(きょういち)