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注目の日本選手権男子100メートル 9秒台に挑む4人<2>

2017 6/20 10:23きょういち
陸上
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出典 nopporn / Shutterstock.com

注目の日本選手権男子100メートル 9秒台に挑む4人<1>



 秒速11・7メートル。

 わかりやすく言えば、時速42キロである。この春、海外で桐生祥秀(東洋大)が男子100メートルのレースでマークした最高速度である。

 一般的には、9秒台に入るためには、最高速度が秒速11・6メートルを超える必要があると言われている。日本男子短距離界ではトップ選手でも秒速11・5メートルぐらいが最高だが、桐生が4年前に10秒01を出した時には秒速11・6メートルを超えていたと言われる。

 今年になり、その最高速度がさらにアップした。それが、10秒0台を何度も出す安定感や、向かい風でも10秒0台を出せる力を生み出しているのだ。

 さらに言えば、その最高速度のアップをもたらしたのは、室伏広治とのトレーニングであることは間違いないだろう。

 ちなみにこの最高速度、どうやって測っているのかと言えば、以前は10メートルごとに印をつけ、ビデオで撮影したものを手作業で解析し、10メートルごとのタイムからその間の速度を割り出していた。

 今では、旧東欧の軍事技術(砲弾の到達距離を測る技術)を応用したレーザー測定器からレーザーを選手にあてることで、瞬時に速度が分かるようになっている。

 これまたちなみにだが、9秒58の世界記録を持つウサイン・ボルト(ジャマイカ)の最高速度は秒速12・35メートルにも達する。

研ぎ澄ました反応時間

 桐生のレベルアップは最高速度だけではない。

 以前にも触れたことだが、スタートの反応時間が劇的に改善されている。

 4月の織田記念で10秒04の向かい風日本最高をマークした時の反応時間は0秒111。昨年、予選落ちしたリオデジャネイロ五輪男子100メートル予選での反応時間は0秒150だから、かなり速くなっている。

 そして、この反応時間の速さも、室伏とのトレーニングが一因となっているのだというのだから、室伏の理論は恐るべしである。聞くところによると、スタートダッシュ時の重心の崩し方にミソがあるようなのだが、凡人には少々わかりにくい。

勝負弱さの払拭なるか

 前回も書いたのだが、以前の桐生に比べて、余裕のようなものを感じる。それはタイムが悪くても大きく不満を述べるわけでもないし、向かい風に文句を言うわけでもない。それは、自身の力が確実に上がっているということを実感しているからだと思う。

 そして、その余裕ぶりが桐生の持つ勝負弱さを払拭できるかに、6月23日から始まる日本選手権での優勝と日本人初の9秒台とがかかっている。

 2013年に10秒01をマークして注目されてきた桐生だが、日本選手権で100メートルを制したのは大学1年生だった2014年の1度だけだ。昨年のリオデジャネイロ五輪の代表選考会を兼ねた日本選手権は3位に終わり、リオ五輪でも準決勝に進めなかったのは出場した日本3選手の中で桐生だけだった。とにかく、ここ一番で勝負弱いのだ。

 特に最大のライバル、山県亮太(セイコー)と走ると分が悪い。昨年はゴールデングランプリ川崎、布勢スプリント、日本選手権とことごとく敗れた。今年も3月の豪州の大会で負けた。

 スタートが圧倒的に速い山県に序盤でリードされると、動きが硬くなって追いつけない。これがこれまでのレースパターンだった。

 しかし、今季はスタートが速くなっている。序盤で負けたとしても、これまでのように離されることはないだろう

 桐生の中盤から後半にかけてのスピードは日本ではトップだ。序盤での差を最低限に抑えるだけのスタートを大一番で出せる精神力と、序盤で負けていても自分の中盤以降の走りを信じられる余裕があれば、桐生が日本一に最も近い。もちろん、大一番で実力通りの力を発揮する必要があるのだが。

ライバルはケガ

 桐生のライバル、山県の動向が見えてこない。今季序盤は豪州で10秒0台を連発し、桐生との直接対決にも勝ったが、4月に地元広島であった織田記念、5月には所属先のセイコーの冠大会であるゴールデングランプリ川崎を、ともに右足首の故障で欠場した。その2大会は、山県にとってはある意味、絶対出なければならない大会なのだが、それを欠場しなければならないほど、ケガの調子が思わしくないのだろうか。

 日本人初の9秒台がかかる舞台で、山県が不在というのでは役者が足りない。日本選手権ではベストの状態でやってくると信じたい。

(続く)