研ぎ澄ました反応時間
桐生のレベルアップは最高速度だけではない。
以前にも触れたことだが、スタートの反応時間が劇的に改善されている。
4月の織田記念で10秒04の向かい風日本最高をマークした時の反応時間は0秒111。昨年、予選落ちしたリオデジャネイロ五輪男子100メートル予選での反応時間は0秒150だから、かなり速くなっている。
そして、この反応時間の速さも、室伏とのトレーニングが一因となっているのだというのだから、室伏の理論は恐るべしである。聞くところによると、スタートダッシュ時の重心の崩し方にミソがあるようなのだが、凡人には少々わかりにくい。
勝負弱さの払拭なるか
前回も書いたのだが、以前の桐生に比べて、余裕のようなものを感じる。それはタイムが悪くても大きく不満を述べるわけでもないし、向かい風に文句を言うわけでもない。それは、自身の力が確実に上がっているということを実感しているからだと思う。
そして、その余裕ぶりが桐生の持つ勝負弱さを払拭できるかに、6月23日から始まる日本選手権での優勝と日本人初の9秒台とがかかっている。
2013年に10秒01をマークして注目されてきた桐生だが、日本選手権で100メートルを制したのは大学1年生だった2014年の1度だけだ。昨年のリオデジャネイロ五輪の代表選考会を兼ねた日本選手権は3位に終わり、リオ五輪でも準決勝に進めなかったのは出場した日本3選手の中で桐生だけだった。とにかく、ここ一番で勝負弱いのだ。
特に最大のライバル、山県亮太(セイコー)と走ると分が悪い。昨年はゴールデングランプリ川崎、布勢スプリント、日本選手権とことごとく敗れた。今年も3月の豪州の大会で負けた。
スタートが圧倒的に速い山県に序盤でリードされると、動きが硬くなって追いつけない。これがこれまでのレースパターンだった。
しかし、今季はスタートが速くなっている。序盤で負けたとしても、これまでのように離されることはないだろう
桐生の中盤から後半にかけてのスピードは日本ではトップだ。序盤での差を最低限に抑えるだけのスタートを大一番で出せる精神力と、序盤で負けていても自分の中盤以降の走りを信じられる余裕があれば、桐生が日本一に最も近い。もちろん、大一番で実力通りの力を発揮する必要があるのだが。
ライバルはケガ
桐生のライバル、山県の動向が見えてこない。今季序盤は豪州で10秒0台を連発し、桐生との直接対決にも勝ったが、4月に地元広島であった織田記念、5月には所属先のセイコーの冠大会であるゴールデングランプリ川崎を、ともに右足首の故障で欠場した。その2大会は、山県にとってはある意味、絶対出なければならない大会なのだが、それを欠場しなければならないほど、ケガの調子が思わしくないのだろうか。
日本人初の9秒台がかかる舞台で、山県が不在というのでは役者が足りない。日本選手権ではベストの状態でやってくると信じたい。
(続く)