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偉大な育成クラブ!サウサンプトンFCをサッカーオタクが解説

2017 8/17 16:20dada
southamptom FC
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注目の育成クラブ!サウサンプトンFC

サウサンプトンFC(以下、サウサンプトン)はプレミアリーグの中堅クラブだ。愛称は「セインツ」で、1885年にセントメリーズ教会が手掛け創設された。ユニフォームの主なデザインは赤と白の縦縞だ。
これまでにメジャーなタイトルにはほとんど獲得できておらず、日本のサッカーファンにとっては、「吉田麻也選手が所属するクラブ」といったくらいの認知度だろうか。
だが、プレミアリーグファンであれば、サウサンプトンほど優秀な選手を育てるクラブはいないとお気付きのはずだ。

国内の英国人選手はセインツ産?

多額の放映権料や海外資本が流れ込むプレミアリーグのクラブにおいて、多額の移籍金で他国の選手を獲得することはもはや普通となった。ただ、その分だけ国内選手である英国人選手の価値も高まっている。
代表的な英国人選手といえば、アーセナルFCのセオ・ウォルコット選手やアレックス・オックスレイド・チェンバレン選手、リヴァプールFCのアダム・ララーナ選手、マンチェスター・ユナイテッドFCのルーク・ショウ選手だろうか。彼らはいずれもサウサンプトンの下部組織の出身だ。特にアダム・ララーナ選手は2016?17シーズン特に好調をみせており、多くのクラブを脅かす存在となった。
ちなみにトッテナム・ホットスパーFCからレアル・マドリードに旅立ったガレス・ベイル選手や、往年の名選手であるアラン・シアラー選手もサウサンプトンの出身だ。
サウサンプトンの下部組織は英国人選手を育てることを一番の目標としており、これはかつてクラブのオーナーであったルーパート・ロウ会長の次代から引き継がれているようだ。

育成と売却で成り立たせてきた経営

2015年ヨーロッパの研究機関が「2012~2015年の間に下部組織出身選手の売却で得た収益」を調査したところ、サウサンプトンが約120億円もの収益をあげていたことがわかった。これは2位であるフランスのLOSCリールの100億円に大差をつけての首位だ。
サウサンプトンは2007?09シーズンの間にクラブの財政悪化や運営する会社の倒産などを経験している。おそらくそういった経験が現在の堅実な経営を形づくったのだろう。「優秀な選手を育て高値で売る」、これは多額の移籍金が飛び交うサッカー界では鉄則だ。中堅のクラブは何度もこうやって生き延びてきた。

次なる有望株、フィルジル・ファン・ダイク

現在、多くのクラブから目を付けられているのがCBのフィルジル・ファン・ダイク選手だ。彼は2015?16シーズンに約19億円でサウサンプトンに加入した。そこから吉田麻也選手とポジション争いをしながら成長を続け、約1年でその価値は約36億円にまで膨らんでいる。マンチェスターの両雄(シティとユナイテッド)、リヴァプールFCなど、名門クラブのターゲットとなっているため、今後さらに価値が高騰する可能性もある。
彼の持ち味は「速く強く、そして巧い」ことだ。CBながら速い寄せで相手FWを潰しにいき、空中戦も得意とする。奪ったボールはロングフィードで前線にそのまま放り込むことができるため、サウサンプトンでも攻撃の起点となっている。たった1人でいくつもの役割をこなせる極めて現代的なCBと言えるだろう。
もし、40、50億円もの移籍金が積まれれば、サウサンプトンは拒否することは難しいはずだ。むしろ多くのクラブが狙っているこの状況を、好ましくさえ思っているかもしれない。

若き司令塔!ジェームズ・ワード・プラウズ

これからさらなる成長が期待されているのが、1994年生まれのジェームズ・ワード・プラウズ選手だ。彼はサウサンプトンの下部組織出身で、2011年時点でトップチームにデビューしている。英国のU世代の代表でも経験を積んでおり、その覚醒が待たれるところだ。
セントラルMFとしてプレーする彼は、落ち着いてボールを捌くことができる選手だ。周囲の状況を即座に判断し、的確な行動を起こすことができる。短いパスも長いパスも得意としており、チームの司令塔として成長してきた。FKにも磨きをかけてきているため、イメージとしては元イタリア代表のアンドレア・ピルロ選手が近いかもしれない。
過去にサウサンプトンでは、FCバルセロナでテクニカルなCBを務めたロナルド・クーマン監督が指揮をとっていた。クーマン監督は現役時代に「牛殺し」と呼ばれた強烈かつ正確なFKを放っていた。この若き司令塔にも、監督は数々の助言を与えたとされる。

日本の吉田麻也の評価は?

下部組織出身の選手が多いサウサンプトンにとって、日本の吉田麻也選手の存在は異例とも言えるかもしれない。2012年に移籍して以来、確実なスタメンとは言えないにしろ放出もされていない。前述のロナルド・クーマン監督指揮時にはSBとしてプレーすることも増え、その柔軟なプレーぶりが評価されているようだ。
しかし、2016?17シーズンは21節終了時点でリーグ6試合に出場と状況は芳しくない。吉田選手のこれからが心配になる。
一方ドイツのブンデスリーガでは、長谷部誠選手が本職のボランチからSBでのプレーを増やしつつある。リーグは違えど、生真面目な日本人はポジションを変えてもそつなくプレーできることが評価される傾向にあるようだ。あるいはポジショニングの良さだろうか。
吉田選手も限られた出場機会の中でも、インパクトを残せることを期待したいところだ。できれば高さの利を活かせるCBでのプレーがベストだが、それは現監督であるクロード・ピューエル監督次第だ。

悲願の上位入賞と続くサイクル

当然のことだが、サウサンプトンは上位入賞を狙っているクラブだ。2010年代からの成績をみれば、残留争いよりは上位入賞を狙うべきクラブだと客観的にもわかる。
しかし、上位への入賞は極めて難しいと思う。マンチェスター・ユナイテッドFCやチェルシーFC、アーセナルFCといったビッグ5に加え、トッテナム・ホットスパーFCやエヴァートンFCといった有力な中堅クラブも控えている。ここに食らいつくことができるだけでも、素晴らしいシーズンと呼べるだろう。
それよりも危惧すべきは、良い成績を収めたシーズンの翌シーズンの市場だ。当然、前年の好調の原因となった選手は、例のごとく他クラブから狙われる。これはクラブの経営方針とも合致することではあるが、継続して好調を維持するのであれば、タレントの慰留が絶対条件となる。もしくは、得た多額の移籍金を次なるタレントの発掘に回すことだ。
サウサンプトンはこのサイクルをこれからも続けていかなくてはならない。このサイクルが止まった時、クラブの財政は昔のように悪化し、残留争いをするクラブに成り下がるかもしれない。プレミアリーグのファンとしては、そうならないことを心から祈りたいところだ。