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ヴェンゲルと赤い巨砲、サッカーオタクがアーセナルFCを徹底解説

2017 8/17 16:20dada
arsenal emblem
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我らが愛すべきクラブ、ガナーズ

アーセナルFCは、現在英国ロンドンの北部を本拠地とするクラブだ。 その前身は王立の軍需工場にある。
軍で扱う兵器の製造を担当していた労働者たち。 その労働者たちはやがて、自分たちが所属するサッカーチームを結成。その後何度か名前を変えながら、1893年に「アーセナルFC」(以下アーセナル)という名前になった。
アーセナルの現在のエンブレムには大砲が描かれているが、この大砲は軍需工場にあったというわけだ。
そして、クラブの愛称は「ガナーズ(砲撃手)」というものだ。もちろん現在では兵器を製造する選手は存在していない。しかしながら、ボールという砲弾を常にゴールに向けて発射し、多くのサポーターを惹きつける魅力を放ち続けている。

ヴェンゲル監督がもたらした新しいサッカー

1996年には名古屋グランパスを率いていたアーセン・ヴェンゲル監督を招聘。名古屋グランパスでは全権を与えられ、様々な改革とヨーロッパサッカーの新しい風を吹かせた。
しかし、そのヴェンゲル監督もアーセナル就任時には、ヨーロッパでは無名の選手だった。多くのサッカーファンから「彼は誰だ?」といった声が投げかけられ、アーセナルの行く末を案じたファンも多かったのだ。現在もそうだが、どんな強豪クラブも弱小クラブも、無名の選手は獲得しても、無名の監督を招聘することは異例中の異例だったのだ。
ただ、状況は一変する。1997-98シーズンにアーセナルはリーグタイトルとFAカップの2冠を達成。かつてのアーセナルは英国に古くからあるカウンターを重視した戦術をとっていた。だが、ヴェンゲル監督が就任してからは、パスとドリブルを多用し、敵陣営をかいくぐるかのような攻撃を展開。
外国人選手も重用しながら、アーセナルを攻撃的なサッカーをするチームへと変化させた。

奇跡の無敗優勝、2003-03シーズンはインビジブル

アーセナルは2000年代に入ってからも輝き続けた。ヴェンゲル監督就任以前はあり得なかったようなタイトルの連続奪取。その功績はアーセナルのクラブ価値を底上げするとともに、サポーターの間に「俺達のクラブは強いクラブ。ビッグクラブなんだ」という自我を育てるのには十分だった。
その自我はサポーターの誇りであり、選手にとっての自信になる。やがてアーセナルは2003-04シーズンにリーグ無敗でタイトルを獲得。その強さは無敵(インビジブル)。38試合のうち26勝、12引き分け、負け0。得失点差に至ってはリーグ2位のチェルシーFCに10点差をつけ47にもなった。
この成績の裏には息をのむような美しいタッチとゴールセンスを持つティエリ・アンリ選手。得点力だけでなく、前述のアンリ選手と阿吽の呼吸を見せたロベール・ピレス選手らの躍動があった。

スタジアム移動は失敗?ヴェンゲル監督の苦悩

アーセナルが現在本拠地としているエミレーツ・スタジアムに移ったのは2006年のことだった。それまでは約100年の間ハイベリーを使用していた。
その歴史に幕を閉ざし、新たな道を歩み始めたのだ。
ただそれからというものアーセナルは長らくタイトルに恵まれなかった。スタジアムの建設には多くの資金を必要とする。故に、クラブの運営にも無理はできなかった。好条件の契約ができないために、育ち始めていた有力な選手たちの慰留に苦労。後に名を挙げるSBコンビのガエル・クリシ選手やアシュリー・コール選手、柔らかいパスが持ち味のサミル・ナスリ選手やセスク・ファブレガス選手らが他クラブへ流出。2000年代はアーセナルにとって暗い時代になった。
当然、スタジアムを移したことに批判の声も集まったし、選手を引き留めることができないヴェンゲル監督にも容赦ない声が浴びせられた。
特に20世紀の終わりごろから、サッカー界、特にプレミアリーグは好景気となった。ライバルクラブはどんどん高い契約金で選手を獲得していたのに、アーセナルはそれについていけなかったわけだ。

後進が育たない?タイトルが獲れない?アーセナルの未来

2010年代に入ってからのアーセナルは活発に選手を獲得するようになった。2012-13シーズンの魔術師ことサンティ・カソルラ選手をビジャレアルCF獲得。2013-14シーズンには当時のレアル・マドリードCFの10番メスト・エジル選手、2014-2015シーズンにはFCバルセロナで出番を減らしていたアレクシス・サンチェスを獲得。
ヴェンゲル監督が信条とする、高いパスワークでスペクタクルなサッカー色を強めた。
彼ら3人の選手はいずれもスペインリーグで活躍した選手で、一線級のタレントだ。始めはフィジカルコンタクトの強いプレミアリーグに馴染むか懸念されたが、今ではしっかりとフィット。リーグでも上位をキープできるようになった。ただ、アーセナルが長らく保有しているジャック・ウィルシャー選手やセオ・ウォルコット選手ら英国人選手は不発。2016-2017シーズン、ジャック・ウィルシャー選手はレンタル移籍するに至った。
つまりは後進の選手たちがいまひとつ伸び悩み、スタメンを確保するに至らないのだ。また、シーズン開始当初は調子が良くても、後半になるにつれケガ人が続出。リーグタイトルもなかなか獲得できないでいる。

英国人選手を育てたいプレミアリーグ

すでにお話した通り、プレミアリーグは依然好景気だ。多額の放映権料やクラブが挙げる収益は、莫大な移籍資金を生み出す。その資金で国外の選手を高値で獲得し、クラブに加えていく。
ただ、アーセナル同様、国外から選手を獲得しフィットさせることはできても、国内の英国人タレントを育てるのには多くのクラブが苦労しているのが現状だ。そのため、マンチェスター・ユナイテッドFCでブレイクしたマーカス・ラッシュフォード選手の登場は、英国サッカー界においても大きな希望となった。
現在のアーセナルでは1996年生まれのアレックス・イウォビ選手が期待の英国人選手だ。彼は躍るようなプレーを見せたあのオコチャ選手の甥だ。ただ、代表はもう一つの国籍であり、生まれ故郷のナイジェリアを選択。未だ英国人としての次なるスター選手はやってきていないのだ。もちろん、アーセナルも獲得と育成を辞めたわけではない。今後もユースチームからの昇格はあり得る。これからも動向に注目したいところだ。