「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【真の選手育成を目指す】イタリアサッカー・育成年代の新たな取り組み

2016 11/29 21:30
サッカー
このエントリーをはてなブックマークに追加

Photo by SpeedKingz/shutterstock.com

サッカーの育成年代にスポットを当てたいと思う。イタリアサッカーを例にとり、真の選手育成を目指すための国レベル・チームレベルでの新たな取り組みを紹介する。

【問題点 その1】大人(監督)が指示してばかり

世界中どこでも見られるのが、指導者のスタンスの問題だ。ベンチからあれこれ指示をしてばかりで、指示を聞かない子どもを叱責する。結果的に、ベンチからの声に依存してばかりのプレーヤーが育ってしまい、真の意味で「考えてプレーする」ことができず、ピッチの中で自身の周りに起こった事象に即時対応できないという問題が生まれがちだ。
特に日本ではその傾向が顕著。大人が伝えたメッセージを限りなく忠実に実行することはメリットでもあるが、そこにプレーヤーとしての「ひらめき」は生まれにくいのは、また大きな問題だ。

【自分で考えるための取り組み その1】審判のいない試合

サッカーの中で審判は公平に試合を裁くという役割を持ち、欠かすことはできない。しかし、イタリアの8?10歳のカテゴリーでは、その審判がピッチ上にいない状態で試合を進める動きが各地で起こりつつある。
ほぼすべてのプレーヤーが「審判が笛を吹けば止まる」という潜在意識をもってプレーしている。しかし、その一方で「笛が鳴るまでプレーを止めるな」とよくコーチは口にする。その潜在意識が介在しない状態を作り上げることで、選手が自ら考えなければいけない心理状態に持ち込もうという狙いがある。ボールがラインの外に出たかどうか、ゴールが決まったかどうかも自分次第。場合によっては相手選手と協議しても良い、というのが大枠だ。
スムーズに行かない可能性もあるが、協議することから社会性を磨くというメリットも生まれてくる。主審はピッチの外から、あくまでオブザーバーとして試合を管理する立場に回るのだ。

【自分で考えるための取り組み その2】選手が出場メンバーを決める

大人に頼らず、自分で考えるプレーヤーを育てるという観点で、セリエAのサッスオーロというクラブでは、12歳のカテゴリーで新たな取り組みを始めた。それは、監督ではなく選手が当日の先発メンバーを決めるというもの。メンバー決定の権利を持つのはゲームキャプテン。
そのゲームキャプテンも持ち回り制にしている。本来その権利を持つ監督は、えこひいきが生じないようにフラットな目線を持って選考するようにキャプテンをサポート。この取り組みから、選手たちもチームメイトに目を配れるようになり、先発メンバー以外の選手も含めて1つのチームだという結束を強くする効果がある。

【問題点 その2】勝利至上主義でメンバーが固定される

勝ちたいと思えば思うほど、監督は勝つための布陣を並べる。その結果、1試合丸ごと、2週間、1ヶ月、3ヶ月ずっとベンチに座りっぱなしの選手が出てきてしまう。ベンチに座って応援しているだけでは、サッカーを楽しめるわけがない。プロ(大人)であれば勝利は義務だが、育成年代の真の目標は目先の勝利でなく、よりよい選手の育成にあるはず。大人も子どもも毎回の試合を勝つことに意義を見出していることが大きな問題になっている。

【プレー機会を平等にするための取り組み】GK含めて全員が試合に出る

イタリアの少年サッカー年代では、ベンチ入りしたメンバー全員がプレーするという慣習がある。チームにより方針はあるものの、プレー機会を平等にするという観点についてはサッカー協会が強く推奨していることもあり、ほぼ全てのチームが踏襲している形だ。交代人数に制限はなくタイミングも自由。GKも前後半で入れ替えてプレーさせることが必須となっている。
試合に出ない選手が、貴重な成長の機会を逸してしまうのはやはり明白。目先の勝利から少し目線を外すだけで、選手個々の経験値は上がり、チーム全体の底上げが可能になるというメリットがある。

まとめ

日本人は正確であり、失敗することを極端に嫌う。ゆえに指導者も細かく指示をして、選手も忠実に応える力を持っているが、ひらめきや個性が育ちにくい土壌がある。プレー機会は平等にならず、ベンチを温めてばかりの選手はサッカーを楽しいとは思えなくなり、サッカーを続けられない子どもが後を絶たない。今回はイタリアを例にとったが、日本国内でもこの点に関する危機感が、一部の指導者たちの間で芽生え始めてもいる。これからの変化に注目してみてはいかがだろうか。