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ヨーロッパ基準を持つ唯一無二の存在、川島永嗣に迫る

2017 8/17 16:20Aki
kawashima
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元なでしこジャパン監督、佐々木則夫氏が見出した選手

2001年、当時大宮アルディージャの強化部長を務めており、後になでしこジャパンの監督としてFIFAバロンドール女子最優秀監督賞も獲得する佐々木則夫氏は1人の高卒新人ゴールキーパーを獲得する。
その選手の名前は川島永嗣。地元埼玉県の浦和東高等学校に通っていた川島選手は周囲が大学進学を勧める中でプロ入りを決意。浦和レッズからはオファーを掴む事ができなかったが、佐々木則夫氏の目に止まり大宮アルディージャに加入する。
1年目は公式戦の出場はなし。プロの壁にぶつかっていた川島選手にチームは当時セリエAに所属していたイタリアのパルマへ留学をさせる。パルマには当時中田英寿氏をはじめブッフォン選手、 カンナヴァーロ氏、アドリアーノ氏などトップレベルの選手も所属していたチーム。
18歳の川島選手はそのパルマでユースチームに所属し、時折トップチームの練習にも参加するという立場だった。

川島選手の基盤となったイタリア留学

パルマのユースチームに留学した川島選手は、そこで初めて世界のトップレベルの練習を目の当たりにし、そしてその指導を受ける事になる。
日本人選手とヨーロッパ主要国との選手の差が最も大きいと言われているポジションがゴールキーパー。
18歳のゴールキーパー川島選手にとってイタリアでの経験はかなり大きいものだった。
イタリアのゴールキーパートレーニングは、例えばどういった動きをするか、その中でどういう技術をつかうのか、そのためにどうった身体の動かし方をするのかというところまで突き詰めるように日本に比べかなり細かい。ハイボールに関しても待つのではなくボールに向かっていく。
ここで受けたトレーニングはフィジカル、テクニック、戦術の全てが詰め込まれており、後に本人が「今の自分があるのは18歳の時にフルゴーニ(当時のコーチ)に出会うことができたから。あの時イタリアに行ってなかったら、僕は今頃プロですらなかったと思う」と語る様に、この時の経験が川島選手の基盤となる。

あのセルジオ越後にも喜んだ才能

イタリアから帰国後、徐々にチームでの出番を得た川島選手は、U-19日本代表に選出。AFCユース選手権を勝ち抜き、2003年UAEでのFIFAワールドユース選手権に出場しベスト8進出。イングランド戦やエジプト戦でのスーパープレーだけでなく、この大会で見せた安定感のあるプレーにあのセルジオ越後氏がべた褒め。
今後の日本代表を任せる事ができる次世代のタレントが見つかったと大きな話題となる。
その翌年に当時日本代表の正GKを務めていた楢崎正剛選手が所属する名古屋グランパスに移籍。セカンドキーパーになることを承知の上での移籍だったが、楢崎選手とハイレベルなポジション争いを繰り広げることでより成長を見せる。
そして2006年当時のクラブ史上最高額となる移籍金で川崎フロンターレに移籍。安定したプレーで3年連続全試合フル出場を達成する。

川島選手が持つヨーロッパ基準

その後南アフリカワールドカップ直前に日本代表の正ゴールキーパーのポジションを掴み、ベルギーのリールセに移籍。ストライカー以上に厳しいと言われていたゴールキーパーというポジションで、ヨーロッパのトップリーグでレギュラーを獲得した初めての日本人選手となり、さらに移籍したスタンダール・リエージュではUEFAヨーロッパリーグでもプレーした川島選手。その活躍を支えたのも18歳の時に経験したイタリアでの日々、そこで得た国際基準のプレーだった。
川島選手のプレーには決して派手さがある訳ではない。また浦和レッズで活躍し、日本代表でもポジションを争う西川周作選手の様な精度の高いキックがある訳でも無い。
しかしゴールキーパーとして最も大切なスキルであるキャッチングやポジショニングはヨーロッパ基準。日本代表でも、ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチと欧州で活躍した監督が常にファーストチョイスとしてきたのもそれが理由だった。

キャッチングとハイボールの対応

川島選手の持つヨーロッパ基準を最も感じさせるのがキャッチングの技術とハイボールの対応だ。
ゴールキーパーのキャッチング技術としてボールをわざと前に落として改めてキャッチするというものがある。これはより確実にキャッチするという意味で日本でも高校生も行っている技術の1つだが、川島選手は実際の試合でこの技術を使う場面は他の日本人ゴールキーパーと比べるとあまり多くない。そうなるのは川島選手のキャッチングの技術が高いから。このボールをあえて前に落とすプレーはあくまでスクランブルの技術であって一度手からボールを離す分、相手が飛び込んだりイレギュラーが起こる可能性ができてしまう。ヨーロッパではその可能性を減らす為にもゴールキーパーはできるだけキャッチをするようになっており、川島選手は日本人ゴールキーパーとしてその基準に最も則ってプレーしている。
そして体格的に劣る分最も日本人ゴールキーパーが不得意とするハイボールの処理も、川島選手は待つのではなくボールに向かっていくというプレーができる。
この2つはわかりにくい部分ではあるがゴールキーパーとしてベースになる部分。ここが他の日本人選手と比べ川島選手の優れている点だ。

川島選手の復活はあるのか

スタンダール・リエージュ退団後は所属チームが決まらず日本代表からも外れる事になり、またその後所属チームが決まってからは日本代表に復帰したが、控え選手として試合に出場する機会を減らしている為レギュラーポジションを奪回するには至っていない。
それでも日本代表に選出されているようにハリルホジッチ監督からはゴールキーパーとしての本質的な技術の高さは認められているということだろう。
その為川島選手の復活に必要なのは試合に出場できる様レギュラーポジションを掴むこと。現在所属するフランスのFCメスでは第3キーパーとなっており状況は厳しいだが、年齢的にもまだ33歳でゴールキーパーとしては老け込む年齢でもない。
本人もまだあきらめている訳では無いだろうし、野心も持っているはず。再び試合出場するようになれば日本代表でもポジションを奪い返す可能性は十分あるのでは無いだろうか。