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ボールを届ける事だけが目的ではない遠藤保仁のパス

2017 8/17 16:20Aki
サッカーボール,ⒸSPAIA
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日本代表歴代最多の152キャップ

10年以上に渡り日本代表の中心選手としてプレーしてきた遠藤保仁選手。
152キャップはもちろん日本代表歴代最多。歴代2位の井原正巳氏よりも30試合も多い数字だ。
そんな遠藤選手が日本代表に選出されたのは2002年。同世代の小野伸二選手や高原直泰選手らに比べるとかなり遅く、シドニーオリンピックでも予選ではプレーしていたが本戦では予備登録選手としてスタンドで見守る立場に。またフル代表に選出されるようになってからも海外組のバックアッパーに過ぎず2006年のドイツワールドカップでもフィールドプレーヤーとしては唯一の出場なし。本格的に日本代表の中心選手となったのはドイツワールドカップ以降と決して若くから日本代表でプレーしてきた訳ではなかった。
しかしそれ以降はしっかりとポジションを掴み、遠藤選手がいるといないとではチームが全く変わってしまうほどの影響力を持つ選手に。同世代の選手の中で最も長く日本代表で活躍した選手となる。
そんな遠藤選手はどこが優れていたのか。遠藤選手のプレーについてまとめる。

伝わりにくい遠藤選手のプレースタイル

遠藤選手のポジションはミッドフィールダー。攻撃的なポジションに入ることも守備的なポジションに入る事もあるが、日本代表では主に守備的な位置でプレーしていた。
遠藤がプレーしているミッドフィールダーの中でも、例えば攻撃的なプレーに特徴がある選手であればドリブラーやセカンドストライカー、パサー、など様々なプレースタイルがあるが、その中でも遠藤選手が得意としているのはパス。しかし中村俊輔選手や中村憲剛選手の様にスルーパスをどんどん狙う様なプレーを選択する事は少なく、実際にガンバ大阪でも2013年、2014年を除くとアシスト数も実はそんなに多い選手ではない。
そして守備的なプレーに特徴がある訳でもない。ボールを奪う能力であれば細貝萌選手や山口蛍選手の方がずっと上だ。
遠藤選手の能力が発揮されていたのはそのどちらでも無い部分。
そんなプレースタイルを本人も「自分はわかりにくい選手」だと称していた。

他のパサーとの違い

遠藤選手はよくパスを出す。そしてよくボールも受ける。出場している試合のほとんどで最もボールを扱う回数が多いのが遠藤選手だ。
ボールを受けた時に選択するのはパスがほとんど。そしてそのパスは前方に送られることもあるが、どちらかといえば横や後ろにパスを出すことの方が多い選手だ。
一般的にいえば特にバックパスは消極的としてあまり好まれないプレーだ。スタジアムでもバックパスに対して野次が飛ぶところを聴いたことのある人も多いだろう。実際に早く前方にボールを送ると、早く相手のゴール前まで迫る事ができるし、もしかするとチャンスにつながるかもしれない。
しかし遠藤選手はバックパスや横パスを多用する。
そしてその横パスやバックパスにこそ遠藤選手のプレーの秘密がある。

遠藤選手の優れているところ

早く相手のゴールに迫る事ができる縦パスだが、そこは相手も最も警戒しているところ。もちろん通る可能性が高ければ遠藤選手も一気に縦パスやスルーパスを狙うが、一つ間違えればボールを失う可能性も高いパスだ。せっかく奪ったボールも再び相手に渡してしまう事になり、再び相手の攻撃が始まってしまう。
そこで縦パスがボールを失う可能性が高い場合は、パスを回しながらチャンスを伺う方法を選択する。遠藤選手は相手の状況を見てここを判断する能力に優れている。
しかしこの判断がいくら優れていても、パスを回しながらチャンスを作る事ができなければ何の意味もない。 遠藤選手の真骨頂はここから。このパス回しからチャンスを作る能力に優れている。

パスで送っているのはボールと時間とスペース

パス回しからチャンスをつくる事ができるという事をもう少し具体的に説明する。
例えば遠藤選手がよく行うプレーの1つであるすぐ隣の選手とのなんてこと無いパス交換。ここでも遠藤選手はパスを出した後に少しだけ動いてボールを受け直す。この少しだけの動きが重要で、遠藤選手が最初にパスを出した時にどうしても相手の選手はそのパスを目で追う。その瞬間に遠藤選手は少しだけ相手から離れる事で後で自分がパスを出したい方向にスペースを作り、そしてパスを出す事ができる時間を作る。リターンパスを受けた時には相手も急いでプレッシャーをかけてくるが、遠藤選手はそこで慌てる事なく相手を十分引きつけてから味方にパスを出す事ができる。このプレーをすることで自分だけでなく遠藤選手からのパスを受けた味方選手にも次のプレーを選択できるだけの時間とスペースをつくる事ができる。
つまり遠藤選手が味方選手に送っているのはボールだけでなく、時間とスペースも送っているのだ。

必要な時に必要な強さのパスを出す

この時間とスペースを送るパスで最も重要なものはパスのスピード。
それは決して強いパスという意味ではない。遠藤選手のプレーをみているとゆっくりとしたボールや速いボールなど様々な強さのパスを使っている事に気がつく。
その1つ1つをみていると、自分だけでなくパスを受ける側の選手の状況やそれぞれの選手の特徴によってパスの強さを使い分けている事にさらに気がつく。
例えば、相手が完全に下がってしまっていて引き出したい時にはゆっくりとしたパスを使い、相手が迫ってこようとしている時には強いパスを出す。またパスを受けてから素早く反転するのが得意な香川選手にパスを出す時は強めのボールを出し、相手を背負ってパスを受けるのが得意な本田選手には左足にピタリと止めやすい強さのボールを出す。 遠藤選手はこのパスのスピードの使い分けが抜群に上手い選手だ。

改めて遠藤保仁に注目してみよう

遠藤選手は足が速いわけでもなく、身体が大きいわけでもなく、強いシュートが打てるわけでもない。決して派手なプレーができる選手ではない。
しかし、敵味方を含めてピッチ内の状況を的確に判断し、自分が適切なプレーを選択することで、さらに味方にプレーしやすい状況を作ってあげる事ができる。
このプレーが歴代日本人選手の中で最も上手いのが遠藤選手。
なので歴代日本代表最多キャップを達成することが出来たのだろう。
近年は日本代表から遠ざかる事となったが、ガンバ大阪ではまだまだ健在。素晴らしいプレーでチームを牽引している。ガンバ大阪の試合を見る時には、遠藤選手がどのようにして味方に時間とスペースを送っているかに注目してみてはいかがだろうか。