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【有馬記念】明暗くっきり、名牝2頭を分けたものとは?

2019 12/23 17:00勝木淳
2019年有馬記念インフォグラフィック
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ⒸSPAIA

牝馬づくしのグランプリ

出走馬のうちGⅠ馬11頭、2019年のGⅠを勝った馬が7頭、ファン投票上位10頭中9頭が出走とグランプリ史上最高のメンバーが揃った第64回有馬記念。結果は2番人気のリスグラシューが2着サートゥルナーリアに5馬身差をつけ圧勝した。勝ち時計は2分30秒5(良)。30秒台決着は09年ドリームジャーニー以来10年ぶり、記憶にも記録にも残るグランプリを振り返る。

2019年の有馬記念のインフォグラフィックⒸSPAIA

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レースの主役はファン投票1位、最終的に単勝1.5倍と断然の支持を受けたアーモンドアイ。春はドバイ、秋は天皇賞(秋)で牡馬相手にGⅠ2勝。凱旋門賞2勝馬のエネイブル陣営が凱旋門賞への出否を気にし、香港でもその動向が注目されるほどの世界レベルの名牝である。

対抗するのは宝塚記念とコックスプレートと同じく牡馬相手にGⅠを2つ勝ったリスグラシュー。同馬はこの有馬記念を最後に引退と報じられており、最初で最後のアーモンドアイとの対決がレースの焦点となった。さあどっちが強いのかと。

舞台は難攻不落の中山芝2500m。スタート直後に3角を迎える舞台で先行馬が外枠に集まるという読めないレースで先手を奪って支配したのは快速牝馬のアエロリット。序盤戦で11秒台のラップをキープし、大逃げの形になった。アーモンドアイは中団の外目を追走、天皇賞(秋)とは入れ替わる形で直後にサートゥルナーリアがマーク。リスグラシューはその直後のインに潜む。 1000m通過58秒台は2500m戦とは思えないほどのハイペース。アエロリットが4角手前で失速、アーモンドアイの外からの進出に競馬場が沸く。

しかし、直線では前を行くスティッフェリオを捉えるもいつもの伸びがない。アーモンドアイの仕掛けに反応したサートゥルナーリアが先頭に立った直後、4角でやや仕掛けを遅らせインから外に進路を求めたリスグラシューが坂下から一気に先頭へ躍り出る。 最後の2ハロンは12秒2-12秒0。厳しいペースに脚が上がる馬ばかりの中、加速ラップが刻まれたリスグラシューだけがゴールに向けて伸び続けた。

いったん、先頭に立ったサートゥルナーリアが2着、3着は最後尾から追い込んだワールドプレミアと3歳勢が続き、未来を示した。

牝馬の優勝はジェンティルドンナ、ダイワスカーレットと名牝が達成しているが、戦前の評価や見立てからレースの主導権、最後の結末に至るまで、多くの牝馬が盛り上げ、レースを完結させた有馬記念は記憶にない。

アーモンドアイの敗因とは

リスグラシューといえば、かつては出遅れが目立ち、クラシックは2、5、2着と最後にいい脚を使うも届かずという強いといえば強いが、何かが足りないというハーツクライ産駒らしい馬だった。それが4歳秋エリザベス女王杯を期に完全覚醒。走るごとに強くなるという超A級ハーツクライ産駒らしい見事な成長で才能を開花させた。一番強くなったタイミングで引退は惜しむ声もあるが、天才アスリートらしい美しい幕引きでもある。

2着サートゥルナーリアは戦前の評価通り中山で一変した印象。東京競馬場の極限の上がり3ハロン勝負ではスピードの持続力が足りない同馬だが、1ハロンの切れ味だけで後続と差をつくることができる中山は得意舞台だ。ただし、待避所に入れないなど精神的なケアを施しての結果だけに気性が大人になってくれれば、主役級は約束されたも同然だろう。

3着ワールドプレミアは武豊騎手が相手がまだまだ強いという分析そのままに乗った形。ドン尻から直線だけにかける競馬は展開も味方してのものだが、今度は成長力次第。GⅠ級相手でも正攻法の競馬ができるか否かにかかっている。

古馬牡馬勢では5着のキセキ、いったん先頭と見せ場を作った13着スティッフェリオに注目。キセキは自身向きの厳しい流れもスタートの出遅れが痛かった。勝ったリスグラシュー同様に道中はイン、勝負所で外に出すという理想的な競馬で5着まで脚を伸ばした。想定外の後方からの競馬でも伸びてきたあたりにキセキの活力を感じる。先行力さえ戻れば主導権を握りレースを支配できるだけに今後も期待できる。

13着スティッフェリオはアエロリットのハイペースを深追いせずに番手追走。同馬の脚が鈍るとみるや、積極的に捉えに出て、4角出口で先頭というシーンをつくった。激流に飲み込まれる形となったが、もっとも厳しい競馬を買って出た経験は今後に生きるはずだ。

最後にアーモンドアイ。状態に不安なしとのジャッジはどうだったのかは判断しようがないが、4角での進出、直線の走りはいずれもアーモンドアイらしさは見られず、小回りの中山競馬場が合わなかった可能性が高い。競馬が人気通りに決まらず、多様な可能性と想定外の結果をもたらす要因に舞台設定がある。馬場状態、距離、コース形態は経験しないことには分からない。適性とは経験の結果と分析による判断であり、アーモンドアイの有馬記念での走りはやってみなければ分からないものだった。

予想陣ではタフな流れになると読んだ京都大学競馬研究会がリスグラシューに◎、門田光生氏は予想印こそ4、2、3着だったが、アーモンドアイ無印という判断は冴え渡っていた。

2019年有馬記念を勝利したリスグラシューⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。