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平行カウントにおける盗塁企図の多さ

2017 11/10 11:20勝田聡
技平行カウントにおける盗塁企図の多さ
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 プロ野球において醍醐味のひとつである盗塁。2017年シーズンはセ・パ両リーグ合わせて845個が記録された。対して盗塁失敗は364個。盗塁成功率でみると69.9%となっている。このように盗塁について語られるときの多くは、『盗塁数』『盗塁成功率』というふたつの数値が用いられる。そこで今回はそのふたつに『カウント』を加え盗塁について一歩踏み込んだ分析をしてみたい。

初球含む平行カウントでの企図が43.8%

 全盗塁企図数(1209回)をカウント別で見ると0ボール0ストライク、いわゆる初球が最も多く260回。全盗塁企図の21.5%にも及んでいる。続いて1ボール1ストライクが144回、2ボール2ストライク・1ボール0ストライクが125回で同数だ。この結果から0ボール0ストライクから3ボール2ストライクまで全12カウントのうち、初球を含めた3つの平行カウントで全体の43.8%もの盗塁が企図されていることがわかる。

カウント別盗塁企図数表

カウント別企図数・カウント別成功率


 つづいて各カウントでの盗塁成功率を見てみたい。もっとも成功率が高いカウントは3ボール0ストライクの100%だ。しかし、盗塁企図が1度しかない。打者が圧倒的に有利なこのカウントでは『待て』のサインが出ることが多く、走者も盗塁を企図しないことからだろう。この次に成功率が高いのは3ボール1ストライクの86.4%、そして初球の78.1%、0ーボール2ストライクの73.7%、0ボール1ストライクの73.0%へと続いていく。ここまでが盗塁成功率69.9%を越えている。

 盗塁企図数の多かったその他の平行カウントをみると、1ボール1ストライクは67.4%、2ボール2ストライクは68%となり盗塁成功率は平均以下だ。同じ平行カウントでも初球の成功率からみると約10%も低下している。企図数が多いから成功率も高い、というわけではないことがわかる。

 もう一つ興味深いのは初球(0ボール0ストライク)、0ボール2ストライク、0ボール1ストライクと0ボール時の成功率がトップ5にランクインしたことだ。0ボール時は守備側も1球外すことが比較的行いやすい。また、初球は盗塁企図がもっとも多く守備側の警戒は強いはずだ。しかし、結果的に盗塁阻止に繋がっていない結果が表れた。

西川選手は初球に圧倒的な数字!

 続いてセ・パ両リーグ盗塁数上位3人のデータに目を向けてみると、京田陽太(中日)を除いて全員が70%以上の盗塁成功率を誇っている。

6人分のカウント別成功率・企図数込


 カウント別企図数を見るとパ・リーグ盗塁王でもある西川遥輝選手(日本ハム)の初球が群を抜いている。44盗塁企図のうち半分にあたる22回が初球となっており成功率も100%なのだ。逆に言うと西川選手が塁に出た際、初球を封じることができれば盗塁される可能性はぐっと減る。

 一方でセ・リーグ盗塁王の田中広輔選手(広島)は、初球の企図数がもっとも多いものの、他のカウントと大きな開きはない。しかし、初球(8回)、1ボール1ストライク(7回)、2ボール2ストライク・1ボール0ストライク(ともに6回)と企図数の上位が球界の数字とリンクしている。緒方孝市監督の走塁における采配は、セオリー通りとも言えそうだ。

 カウント別の成功率に目を向けてみる。盗塁数の多い選手たちということもあり、2回以上の企図が行われたカウントにおいて、成功率が5割未満となることはほとんどない。しかし唯一、京田選手は5割を下回っているカウントがある。それも2つだ。

 そもそも、盗塁成功率が高くない京田選手ではあるが、1ボール0ストライク(44.4%)、1ボール1ストライク(25%)において極端に成功率が低い。盗塁企図数も初球(13回)、1ボール0ストライク(9回)、1ボール1ストライク(4回)とトップ3に入っていることも見逃せない。
盗塁企図が多いため対戦チームも警戒心が高くなり盗塁視するケースが増えているとも考えられそうだ。しかし、京田選手はルーキーだ。盗塁技術の向上は今後見込めるだろう。

 また、パ・リーグトップの盗塁成功率(10盗塁以上)を誇る荻野貴司選手(ロッテ)。26盗塁、3盗塁死と89.7%の成功率を誇るが、京田選手同様に1ボール0ストライク(2回)、1ボール1ストライク(1回)でのみ盗塁死を記録している。盗塁のスペシャリストにおいても鬼門のカウントとなった。

 このようにカウント別での盗塁企図数、盗塁成功率に目を向けてみるといままでとは違ったものが見えてくる。チームごとの特色、采配の傾向も浮かび上がるだろう。

 『このカウントで走ると成功率が高い』『この選手はこのカウントだと走る可能性はほぼない』といった、いつもとは少し違った楽しみが生まれるのではないだろうか。

 各球団はあたりまえのように行っているであろう各種分析。一般のファンに公開されることはほとんどない、ミステリアスな部分を追跡。通常公開されているデータから一歩進み、かつマニアックになりすぎないコラムをグラフィックとともにお届けしていきたい。

企画、監修:データスタジアム