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崖っぷちからの世界一 ナショナルズが見せた執念のベースボール

2019 11/1 17:27棗和貴
2019年世界一に輝いたナショナルズⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ナショナルズ、球団初のワールドシリーズ制覇

ワシントン・ナショナルズがヒューストン・アストロズを4勝3敗で破り、2019年のワールドシリーズを制覇。前身であるモントリオール・エクスポズ時代を含め、1969年の球団創設以来、初のワールドチャンピオンに輝いた。デーブ・マルティネス監督は、世界最高峰のリーグの頂点に立った感想を興奮気味に「信じられない!」と叫んだ。

ふと、日本ハム元監督のトレイ・ヒルマン氏の顔が浮かんだ。確かにナショナルズの世界一は奇跡的だった。思えば、ナショナルズの奇跡はすでにポストシーズンのナ・リーグワイルドカードゲームから始まっていたのかもしれない。

それは、ワールドシリーズ第7戦のおよそ1ヶ月前の10月1日に行われたミルウォーキー・ブリュワーズ戦のことだった。2点ビハインドで迎えた8回裏2アウト満塁、バッターボックスには若きスーパースター、フアン・ソト、マウンドには今季のリーグ最優秀救援投手、ジョシュ・ヘイダーが上がっていた。ソトはヘイダーの力のある直球を捉え、ライト前ヒット。同点のランナーが生還するのは確実だったが、ブリュワーズのライトがまさかの後逸。これによりナショナルズは逆転し、負ければ終わりの一発勝負であるワイルドカードで勝利し、次の地区シリーズへと駒を進めた。

試合後、ブリュワーズのカウンセル監督は「クレイジーな出来事が起こったんだよ」と発言。もちろん、いくら有能なカウンセル監督でも予想はできなかっただろう。ただ、ナショナルズはポストシーズンを通じてこの後も「クレイジーな出来事」を起こす。

ナショナルズの快進撃は続く

ロサンゼルス・ドジャースの2勝1敗で迎えた地区シリーズ第4戦では、エースのマックス・シャーザーが7回1失点と好投。続く第5戦では、8回に2者連続ホームランで同点に追いつくと、延長戦でハウイ・ケンドリックが満塁弾を放った。その後、リーグ優勝決定シリーズでセントルイス・カージナルスに4連勝。

そして、ワールドシリーズでは敵地ヒューストンで連勝し、このまま世界一に輝くかと思ったが、ホームで3連敗。崖っぷちに立たされてもう終わりかと思ったが、敵地ヒューストンで2勝連勝し、世界一に輝いた。

ポストシーズンのエリミネーション・ゲーム(負ければ敗退する試合)で5回も勝利したのはMLB史上初。そして注目すべきは、その5回全てが逆転勝ちだったということである。ナショナルズの2019年シーズンのチーム・スローガンは「Stay in the fight(戦い続けろ)」だったが、まさに勝利への執念が結実するかたちとなったのだ。

「やっと勝てた」ベテランが見せた涙

最後に、ナショナルズの先発陣を支えたベテラン2人、シャーザーとアニバル・サンチェスについても触れておきたい。2人にとっても、この世界一は執念が実ったものだった。

シャーザーとサンチェスは、2012年にデトロイト・タイガースの一員としてワールドシリーズに出場したが、チームはサンフランシスコ・ジャイアンツに敗れている。続く2013年と2014年も、タイガースは地区優勝こそ果たしたがワールドシリーズには出られなかった。

それから5年後の2019年、2人はナショナルズで再会。悲願だったワールドシリーズ制覇を果たした。

アストロズ最後のバッターが三振に倒れ、ナショナルズのメンバーがマウンドに集まった時、サンチェスは涙を浮かべながらシャーザーに抱きついてこういった。「やっと勝てたね」と。 ※日付は現地時間