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今年の大学駅伝は2強から混戦に 2017年全日本大学駅伝(6)

2017 11/14 12:54きょういち
駅伝
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出典 zf / Shutterstock.com


今年の大学駅伝は2強から混戦に 2017年全日本大学駅伝(5)

 11・9キロの7区は、最終8区へのつなぎの区間となる。この区間の見どころは一つだった。

 東海大がどれだけの差で逃げるのか。どれだけの差で最終区へつなぐのか。そのタイム差によって、東海大が勝つのか、神奈川大が勝つのかが、見えてくる。7区に53秒差の3位でたすきをつないだ青山学院大は優勝が厳しくなった。

 東海大は10月の出雲駅伝5区区間賞の3年生三上嵩斗。神奈川大は4年生の大川一成。5000メートルの自己ベストでみると、三上が13分47秒台、大川は14分10秒台。力は三上の方が上だが、数字の通りにはいかないのが駅伝というものである。

 1秒でも先にたすきをアンカーにつなぎたい三上が前にでたが、大川はその後ろにぴたりとついた。差を広げたい三上とすれば、そうするしかないのだが、大川からすれば、いい引っ張り役になってくれた。

 三上が焦りの走りだったのに対し、大川には余裕があった。少々の差なら、アンカーの鈴木健吾が逆転してくれるという思いがあったのだろう。

 三上と大川の併走は7キロ手前まで続いた。三上が大川を引き離したが、二人の力の差からすれば、神奈川大からすれば上出来だったろう。

 最終8区には、たすきは東海大がトップで渡した。しかし、2位神奈川大との差は17秒しかなかった。

 大川は「17秒差ならアンカーがひっくり返してくれると思った」。

   3位には青山学院大がつけていたがトップとは1分6秒差。2連覇の夢はほぼ絶たれた。

大学ナンバーワンの力を見せる

 8区は最長19・7キロ。東海大のアンカーは4年生の川端千都。5000メートルで13分49秒33、1万メートルで28分44秒71の自己ベストを持ち、世界ジュニア、ユニバーシアードにも出場経験がある。長い距離では東海大でも屈指の力を持っている。

 しかし、神奈川大のアンカーで4年生の鈴木は役者が違う。

 5000メートルの自己ベストは13分57秒88とスピードは川端に劣るものの、1万メートルは28分30秒16。今夏のユニバーシアードのハーフマラソンは銅メダルで、現役大学生では最強の長距離走者である。

 神奈川大の大後栄治監督に確固たる自信があった。

 「健吾はレベルが違う。東海大の川端君には申し訳ないが、アンカー勝負になった時に優勝を確信した」

 その自信は実力差からくるだけのものではなかった。鈴木は夏の走り込みが不足していたため、出雲駅伝を回避し、東京・伊豆大島でひとりキャンプを張っていた。そこでしっかりと足をつくり、この全日本にのぞんでいた。

 予想通りだった。「こんなに僅差でくるとは思わなかった」という鈴木が、2キロ過ぎに川端に追いついた。上下動が少なく、スムーズに足が回転する効率的な走り。6キロ過ぎから徐々に差を広げ、勝負を決めた。

 神奈川大の優勝は20年ぶり3度目だった。鈴木のタイムは57分24秒で区間2位。区間賞は山梨学院大のドミニク・ニャイロで57分6秒。東海大の川端は58分59秒で区間3位と決して悪くなかった。ただ、相手が悪かった。連覇を狙った青山学院大は最後まで優勝争いに絡めず、3位に終わった。

 栄光のテープを切った鈴木はメンバーをたたえた。

 「僕が差を広げたというよりは、1~7区で前に食らいついてくれたおかげです」

箱根は2強から3強へ

 20年ぶりに頂点に立った大後監督は万感の思いだった。「20年かかりましたけど、今年は以心伝心の素晴らしいレースをしてくれた」

 1996、97年度は全日本と箱根を連覇。その当時は走り込みを重視し、区間5位以下にならない安定感を求めた。

 ただ、それでは近年のスピードについていけなくなった。そこで、走り込みを減らして、走り方など技術を高める練習に力点を置いた。「成功した自分を否定するのは怖かった」と大後監督は言う。

 東海大は1区鬼塚翔大、4区関颯人という2年生の実力者2人が伸び悩んだのが大きかった。両角速監督は「鬼塚も関もトラックが得意で、跳ねるような走りなんです。それが駅伝ではなかなか……」と話した。

 いつもは明るい青山学院大の原晋監督も表情は渋かった。「一度も先頭争いに絡めなかった。凸凹(でこぼこ)駅伝。5区の下田祐太のところで一瞬勝てるかなとも思ったけど、「甘くなかった」。そして、「いずれにしても起用したのは私の責任。これで終わるつもりはない。箱根駅伝はしっかり頑張っていきたい」と話した。

 正月の箱根は長い距離に適性のある青山学院大が優勝争いの軸だろう。東海大も力はあるが、長い距離に対応がまだ追いついていない。むしろ、全日本を勝った神奈川大の方が面白い存在になりそうだ。

(続く)